mendaXiv:2026.000028

新卒募集企業の採用競争の不可避性――オフェンシブ・リアリズムの適用可能性の検討――

pata ID: 6263c8d5-909a-4ea0-8f07-f02a99d1a251

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  • v1 2026-10-27 16:57 UTC published current

Abstract

本稿は、日本の新規大学卒業者を対象とする企業間採用競争について、国際政治学におけるオフェンシブ・リアリズム(攻撃的現実主義)の適用可能性を検討するものである。 John J. Mearsheimerのオフェンシブ・リアリズムは、国際体系の無政府性、国家間の攻撃能力、他国の意図に関する不確実性、生存の優先、国家の合理性という五つの前提から、大国が相対的権力の最大化を追求する構造的誘因を説明する。 本稿は、新卒採用市場においても、企業間の採用活動を統一的に調整する強制的権威の不在、希少人材の排他的獲得可能性、競合企業の採用戦略に関する不確実性、企業の存続・成長志向、および一定の組織的合理性という対応関係が成立することを指摘する。 これらの条件の下では、個々の企業が競争的採用活動を積極的に実施する誘因が生じ、採用早期化、内定者の囲い込み、採用広報の拡大などが、企業単独の合理的選択から説明可能となる。 さらに、本稿は二企業間の採用時期選択ゲームを構築し、早期採用による競争上の優位がその費用を上回る場合、企業が相互に採用時期を前倒しする非協調均衡が成立することを示す。 ただし、新卒採用市場は国際政治体系とは異なり、労働契約の当事者として学生自身が選択権を有する。また、人材獲得競争には賃金上昇、情報提供、マッチング効率の改善といった正の効果も存在する。このため、オフェンシブ・リアリズムの適用は、企業間競争の構造的誘因を説明する範囲に限定され、採用競争の全面的なゼロサム性や、その無条件の不可避性を意味するものではない。 本稿は、新卒採用競争を個別企業の採用姿勢や倫理の問題としてのみ捉えるのではなく、企業間の相互依存関係によって生じる構造的現象として理解するための理論的枠組みを提示する。

The Inevitability of Competition among Graduate-Recruiting Firms: Examining the Applicability of Offensive Realism

分野: 国際政治学・労働経済学・ゲーム理論・組織戦略論

キーワード: オフェンシブ・リアリズム、新卒一括採用、採用競争、無政府状態、相対利得、安全保障のジレンマ、採用早期化、マッチング市場

1.序論

1.1 研究の背景

日本の新卒採用市場では、採用活動の早期化・長期化、インターンシップを通じた早期接触、内々定者の確保、採用広報の多様化など、企業間の人材獲得競争に関連する現象が継続的に観察されている。

政府は採用活動の開始時期について一定のルールを要請しているものの、2026年3月に公表された2027年度卒業予定者向け要請においても、所定の日程より前に実質的な採用選考活動が実施され、就職活動が早期化・長期化していることを問題としている [request2026]。

こうした状況は、しばしば個別企業による採用活動の過熱や、他社に先んじて優秀な学生を獲得しようとする姿勢の問題として論じられる。

しかしながら、競争的な採用活動が各企業にとって合理的である場合、その競争を企業の自発的な自制によって抑制することは困難となる。

ある企業が採用活動を早期化した場合、競合企業は、採用の機会を失う危険を回避するため、自社の採用活動も早期化する誘因を持つ。結果として、各企業が採用時期の早期化を必ずしも望んでいなくても、競争全体として早期化が進行し得る。

このような、個々の主体にとって合理的な行動が相互作用によって望ましくない集団的帰結を生む構造は、国際政治学においても議論されてきた。

とりわけMearsheimer(2001) [mearsheimer2001]のオフェンシブ・リアリズムは、国家間の不信や競争を、個別国家の攻撃的性向よりも、国際体系が備える構造的条件から説明する理論である。

本稿は、国家間の勢力競争と企業間の人材獲得競争との間に、共通する戦略的構造が存在するのではないかという問題意識から出発する。

1.2 研究課題

本稿では、以下の三つの問いを設定する。

第一に、オフェンシブ・リアリズムを構成する五つの前提は、日本の新卒採用市場にも成立するか。

第二に、それらの前提が成立する場合、企業間の競争的採用活動、とりわけ採用活動の早期化を構造的帰結として導くことができるか。

第三に、企業と国家の相違、学生の主体性、労働市場における制度的制約などは、当該理論の適用可能性をどの程度制限するか。

1.3 研究方法

本稿は理論的研究であり、独自のアンケート調査、企業への聞き取り調査、採用活動に関する実験は実施しない。

研究方法として、国際政治学の理論的前提と労働市場の制度的特性を比較し、その対応関係を明らかにした上で、簡単な非協力ゲームによって採用時期の選択を分析する。

また、既存の採用市場研究および日本の新卒採用に関する公表資料と照合し、理論が説明し得る現象と、説明できない現象を区別する。

本稿の目的は、採用早期化という現象自体の新規発見ではなく、国際政治学の構造的競争理論を用いた、新卒採用競争の統一的な解釈可能性の検討である。

2.先行研究および理論的枠組み

2.1 オフェンシブ・リアリズムの基本構造

Mearsheimer(2001) [mearsheimer2001]は、国家間の権力競争が生じる原因を国際体系の構造から説明した。

その理論は、以下の五つの前提に依拠している。

  1. 無政府性(Anarchy):国際体系には、国家の上位に位置する中央政府が存在しない。
  2. 攻撃能力(Offensive Capability):国家は相互に危害を加える能力を有する。
  3. 意図の不確実性(Uncertainty about Intentions):国家は他国の現在および将来の意図を完全には把握できない。
  4. 生存の優先(Survival):国家は自国の生存を基本的目標とする。
  5. 合理性(Rationality):国家は自らの生存可能性を高めるため、戦略的に行動する。

これらの前提から、国家は他国の善意に自国の生存を委ねることができず、自助(self-help)によって安全保障を確保しようとする。

さらに、他国よりも大きな権力を保有すれば、それだけ他国の行動によって自国の生存が脅かされる危険を低下させられる。このため、大国は現状維持に満足するとは限らず、相対的権力の増大を追求する誘因を持つ。

重要なのは、この理論が国家指導者の攻撃的性格を必須の説明要因としない点である。

個々の国家が平和を望み、合理的かつ慎重に行動したとしても、国際体系が一定の条件を備えている限り、権力競争が発生し得る。

この意味で、オフェンシブ・リアリズムは、競争の原因を主体の性質ではなく、主体が置かれた構造に求める理論である。

2.2 安全保障のジレンマ

Jervis(1978) [jervis1978]が論じた安全保障のジレンマは、ある国家が自国の安全保障を強化するために実施した措置が、他国の安全保障を脅かすものとして認識され、他国による対抗措置を誘発する状況を説明する。

国家Aによる軍備増強が防衛を目的としていても、国家Bはその目的を確実には判断できない。Bが軍備を増強すれば、今度はAが危険を感じることになる。

このような相互作用は、双方が現状維持を望んでいたとしても発生し得る。

新卒採用市場においても、企業Aが採用予定人数の確保を目的として選考時期を前倒しした場合、企業Bは自社の採用機会を守るために同様の行動を取ることが考えられる。

ここで、Aの行動がBに直接的な損害を与えることを目的としていたかどうかは、必ずしも重要ではない。

Bにとって重要なのは、Aの採用活動によって自社の採用可能性が低下するかどうかである。

ただし、安全保障のジレンマは本来、国際政治における生存上の不安を扱う概念である。以下では、この構造を採用市場における競争的先行行動へと類推的に拡張する。

2.3 採用市場における取引時期の前倒し

採用活動の早期化自体は、既存の経済学において研究されてきた現象である。

Roth(1984) [roth1984]は、米国の医師研修市場の歴史を分析し、採用時期やマッチング制度の設計が市場の安定性に与える影響を検討した。

さらにRoth and Xing(1994) [rothXing1994]は、初期キャリアの労働市場を含む複数の市場を対象に、取引の実施時期が次第に前倒しされる現象を分析している。

この研究系譜において、採用早期化は市場参加者間の取引時期の調整に失敗することで生じる問題として理解できる。

これに対し、本稿が導入するオフェンシブ・リアリズムの視点は、採用市場の時間的な調整問題を、企業の相対的地位をめぐる競争として捉え直す点に特徴がある。

すなわち、既存の市場設計論が主として「なぜ取引の時期が前倒しされるのか」を問うのに対し、本稿は「なぜ企業は、競争上の地位を維持するために、他社よりも早く行動せざるを得ないと判断するのか」を問題とする。

両者は対立する説明ではなく、異なる抽象度から同一の現象を記述するものである。

2.4 日本の新卒採用市場の特徴

本稿が対象とする日本の新卒採用市場には、次のような特徴がある。

第一に、卒業予定者を年度単位の集団として扱う、新卒一括採用の慣行がある。このため、企業の採用活動と学生の就職活動が一定の期間に集中しやすい。

第二に、企業が採用する学生の人数だけでなく、採用する学生の能力、適性、専門分野などが、将来の経営成果に影響し得る。

第三に、企業の採用予定人数や採用基準の一部は公表されるものの、採用活動の実際の進捗、個々の学生の評価、内定辞退の見通し、将来の採用戦略などは完全には観測できない。

第四に、政府や大学による日程調整や要請が存在する一方で、企業による採用活動の決定は、基本的には企業自身の経済的判断に委ねられている。

実際、政府が2025年12月26日に取りまとめた採用日程に関する考え方では、企業の採用活動は本来自由な経済活動であり、政府の要請は企業を法的に拘束するものではないと整理されている [schedule2025]。

もっとも、これは採用活動全般が法的規制から自由であることを意味しない。労働関係法令、個人情報保護、独占禁止法その他の法令は、引き続き企業の行動を制約する。

したがって、日本の新卒採用市場には、一定の制度的秩序が存在しながらも、企業間の採用戦略を完全には統制できない構造が認められる。

3.新卒採用市場への五仮定の適用

3.1 五仮定の対応関係

オフェンシブ・リアリズムの五つの前提と、日本の新卒採用市場の構造的特徴との対応関係を表1に示す。

表1 オフェンシブ・リアリズムと新卒採用市場の対応関係

国際政治体系における前提 新卒採用市場における対応 適用上の留保
無政府性 企業間の採用活動を強制的に一元管理する主体が存在しない 国家による法規制は存在する
攻撃能力 優秀な学生の獲得によって他社の採用機会を減少させられる 学生本人の同意と選択が必要
意図の不確実性 他社の採用人数、選考進捗、将来戦略などを完全には観測できない 一部の採用情報は公開される
生存の優先 企業は事業継続に必要な人材を確保し、成長を追求する 採用失敗が直ちに企業の消滅を意味するわけではない
合理性 企業は人材獲得の便益と費用を考慮して戦略を選択する 組織内の利害対立や限定合理性が存在する

以下、各仮定を個別に検討する。

3.2 第一仮定:採用市場の限定的無政府性

国際政治体系における無政府性とは、国家間の競争や紛争を最終的に裁定し、その決定を強制的に執行できる世界政府が存在しないことを意味する。

新卒採用市場においても、企業間の人材配分を統一的に決定する主体は存在しない。

各企業は、法令等による制約の範囲内で、採用予定人数、募集職種、提示待遇、選考方法などを決定することができる。

政府が採用開始時期を要請したとしても、それだけで企業間の競争的誘因が消滅するわけではない。

ある企業が早期に採用活動を実施し、有望な学生を獲得した場合、他社が失った採用機会を回復させるような中央的な人材再配分機構は存在しない。

したがって、新卒採用市場は、制度的な規制を受けながらも、人材配分については分権的な意思決定が行われる競争体系と考えられる。

ただし、この状態は国際政治学における厳密な意味での無政府状態とは異なる。

企業間の紛争には裁判所による解決が可能であり、労働契約に関する法的枠組みも存在する。そのため本稿では、採用活動の競争的側面について「限定的無政府性」が認められるものとする。

3.3 第二仮定:排他的な人材獲得能力

国際政治体系における攻撃能力とは、ある国家が他国に軍事的損害を与えることのできる能力を意味する。

企業は、採用活動によって競合企業に直接的な軍事的損害を与えるわけではない。しかし、同じ学生を複数の企業が同時に採用できないという制約の下では、人材の獲得が競合企業の採用可能性を低下させる。

たとえば、企業Aと企業Bが同じ学生を採用したいと考えており、その学生がAへの入社を決定した場合、Bは当該学生を同時に雇用することができない。

また、AとBが同一の製品市場で競争している場合、学生の獲得は、Aの人的資本形成を促すだけでなく、Bの将来的な競争力の形成を阻害する可能性がある。

ここで重要なのは、企業が他社に損害を与えることを直接の目的としていなくても、自社の採用成功が他社の競争上の不利益につながり得る点である。

ただし、採用をめぐる排他性は人間の所有を意味しない。労働契約によって特定の労務提供先が選択されることを意味するにすぎず、学生には職業選択の自由がある。

さらに、学生の能力は一様ではなく、企業ごとに評価も異なる。このため、全ての採用行為が同程度の競合企業への不利益を生むわけではない。

本稿では、企業間で評価の高い学生が重複し、かつ採用競争が激しい場合に、この仮定が強く成立するものとする。

3.4 第三仮定:競合企業の意図の不確実性

企業は他社の採用戦略について、完全な情報を保有していない。

採用予定人数や募集要項は公開される場合があるものの、実際の選考基準、候補者の評価、内定辞退の予測、将来的な採用規模の変更などには不確実性が存在する。

したがって、企業は競合他社が今後どの程度積極的に採用活動を行うかを、完全には予測できない。

この状況では、企業は他社が早期採用活動を実施する可能性を考慮し、採用機会を喪失する危険を回避しようとする。

企業Aが他社の採用計画を知らない場合、競争が発生してから対応するよりも、あらかじめ採用活動を開始する方が有利であると判断する可能性がある。

このように、不確実性は先制的な採用活動を促進する要因となり得る。

ただし、不確実性の存在だけで競争激化が必然的に導かれるわけではない。企業が先制的行動の費用を大きく評価する場合や、他社との競争が弱い場合には、採用活動を遅らせることも合理的となる。

3.5 第四仮定:企業の生存と繁栄

企業は事業活動の継続を目指す組織であり、そのために必要な経営資源を確保しようとする。

人的資本は、技術開発、生産、販売、管理などの事業活動に関係する経営資源である。

したがって、企業にとって有能な人材の獲得は、自社の持続的競争力を維持・向上させる手段となり得る。

特に、高度な専門能力を持つ人材の供給が限られている場合、人材の獲得失敗は事業計画の遂行に重大な影響を及ぼす可能性がある。

一方、企業と国家には重要な相違がある。

国家の存続と主権の維持は、Mearsheimerの理論において優先的な目標である。これに対して企業は、事業売却、合併、撤退などを選択することができる。

また、企業が新卒者を採用できなかったとしても、中途採用、外部委託、業務自動化、既存社員の育成などによって不足する能力を補える場合がある。

そのため、企業の採用戦略を説明する際には、国家の生存という概念をそのまま置き換えるのではなく、事業継続と経済的成果の追求へと修正する必要がある。

3.6 第五仮定:企業の合理性

企業は、費用、収益、人的資源、事業継続性などを考慮して意思決定を行う組織である。

特に、資本市場からの評価や経営目標に対する説明責任が存在する場合、企業には経済的合理性から著しく逸脱した行動を継続しにくいという制約が生じる。

採用活動についても、採用予定人数の充足、採用した人材の能力、採用費用、入社後の定着率などを考慮して戦略を選択する誘因がある。

ただし、企業は単一の意思決定主体ではない。

経営者、人事部門、事業部門などの間には目標の相違が存在し、情報の偏在や社内政治も意思決定に影響する。

また、非上場企業を含む全ての企業が、株主から同程度の規律を受けるわけではない。

本稿では、企業が完全な合理性を備えるとは仮定せず、競争上の損失を回避しようとする程度の限定合理性を持つと想定する。

3.7 小括

以上の検討から、新卒採用市場には、オフェンシブ・リアリズムの五仮定と類似した構造的条件が存在することが認められる。

しかし、それぞれの前提は完全に同一ではない。

特に、企業間の競争は国家間の軍事的対立とは異なり、学生の自律的選択、労働市場の法制度、代替的な人材獲得手段によって制約される。

したがって、五仮定との対応は、採用競争が必ず激化するという結論を直接保証するものではない。

次節では、これらの構造的条件の下で、いかなる追加条件が満たされた場合に採用早期化が企業の合理的選択となるのかを分析する。

4.採用競争のゲーム理論的分析

4.1 企業間競争と相対利得

本節では、企業の採用活動を、複数の主体が限られた採用機会をめぐって競争する非協力ゲームとして定式化する。

企業 i の利得を、次のように表す。

U_i=B_i(h_i)-C_i(a_i)-\rho_i\sum_{j\ne i}w_{ij}B_j(h_j)

ここで、

  • h_i:企業 i が獲得する人材の量および質を表す指標
  • a_i:企業 i の採用活動水準
  • B_i(h_i):採用によって得られる期待経済便益
  • C_i(a_i):採用活動に要する費用
  • w_{ij}:企業 j が企業 i にとって持つ競争上の重要性
  • \rho_i:競合企業の利得を自社にとっての戦略的不利益として評価する程度

である。

右辺第一項および第二項は、自社の採用活動による絶対的利得を表す。

第三項は、競合企業の人的資本形成によって自社の相対的競争地位が低下する可能性を考慮したものである。

ここでの相対利得とは、競合企業の利益が増加すること自体を企業が嫌悪するという意味ではない。

競合企業が有能な人材を獲得することによって、将来の市場競争における自社の利潤や事業継続性が悪化し得るという戦略的関係を、簡略化して表したものである。

たとえば、同一の製品市場で競争する企業Aと企業Bが、特定の専門能力を持つ学生を獲得しようとする場合、Aが当該学生を採用することは、Aの研究開発能力を向上させると同時に、Bの研究開発能力の形成を妨げる可能性がある。

一方、事業領域がほとんど重複しない企業同士では、この効果は小さいかもしれない。

したがって、企業間採用競争の激しさは、学生の希少性だけでなく、企業間の競争関係にも依存する。

このことから、次の命題が導かれる。

命題1:相対利得による採用競争の増幅

同一の人材を求める企業間で、当該人材の獲得による将来的な競争地位の変化が大きいほど、企業には採用活動を強化する誘因が生じる。

ただし、これは他の条件が一定である場合の比較静学的な予測である。

4.2 採用時期選択ゲームの構築

二つの企業A、Bが、同一の学生を採用しようとする状況を考える。

各企業は、採用活動を通常時期に開始する戦略 L と、競合に先行して開始する戦略 E のいずれかを選択できる。

企業が当該学生を採用した場合の期待純便益を v、採用活動を早期化する追加費用を c とする。

両企業が同じ戦略を選択した場合、学生がいずれの企業に入社するかの確率は、それぞれ 1/2 であると仮定する。

一方、一方の企業だけが採用活動を早期化した場合、当該企業の採用成功確率は \delta だけ上昇するものとする。

ただし、

v>0,\quad c>0,\quad 0<\delta<\frac12

とする。

ここで \delta は、早期接触、選考機会、学生との関係形成などによって生じる先行者利益を表す。学生が企業を自由に選択することを前提とし、その選択確率に早期接触が影響する場合を想定している。

このとき、企業間の利得行列は表2のようになる。

表2 採用時期選択ゲームの利得行列

各セルは(企業Aの利得、企業Bの利得)を示す。

企業A \ 企業B 早期採用 E 通常採用 L
早期採用 E (v/2-c,\;v/2-c) (v(1/2+\delta)-c,\;v(1/2-\delta))
通常採用 L (v(1/2-\delta),\;v(1/2+\delta)-c) (v/2,\;v/2)

企業Aについて、企業Bが通常採用を選択した場合、Aが採用を早期化することによる利得の変化は、

\Delta U_A=v\delta-c

となる。

また、企業Bが早期採用を選択した場合にも、Aが通常採用から早期採用へ変更することによる利得の変化は、

\Delta U_A=v\delta-c

となる。

したがって、

\boxed{v\delta>c}

という条件が成立する場合、企業Aにとって早期採用 E は厳密な意味での支配戦略となる。

企業Bについても同様である。

この結果、両企業が合理的に行動するとき、唯一のナッシュ均衡は、

(E,E)

となる。

4.3 早期化均衡の非効率性

両企業が通常採用を選択する場合、企業全体の期待利得の合計は、

W(L,L)=v

となる。

一方、両企業が早期採用を選択した場合には、

W(E,E)=v-2c

となる。

したがって、

W(E,E)<W(L,L)

が成立する。

両企業が採用活動を早期化したとしても、互いの先行者利益が相殺されるため、採用成功確率は変わらない。

しかし、採用活動の早期化に伴う費用は双方に発生する。

このとき、両企業は通常採用を選択した場合よりも低い利得を得ることになる。

それにもかかわらず、各企業は、相手が通常採用を選択した場合に採用機会を奪われることを回避するため、早期採用を選択する。

すなわち、いずれの企業も採用活動の早期化による費用負担を望んでいなくても、全ての企業が早期化を選択する均衡が成立する。

この構造は、国際政治における軍備競争や安全保障のジレンマと類似している。

ただし、本モデルにおける W は企業側の利得を単純化して合計したものであり、学生の利益を含む社会的厚生ではない。早期採用が学生の不確実性を軽減する場合などには、社会的評価が変わり得る。

4.4 相対利得を考慮した場合

さらに、企業が競合企業との相対的競争地位を重視する場合を考える。

企業 i の利得を、

U_i=vP_i-\rho vP_j-cE_i

とする。

ここで、P_i は自社の採用成功確率、P_j は競合企業の採用成功確率、E_i は早期採用を実施する場合に1、それ以外の場合に0をとる変数である。

このとき、早期採用を選択することによる利得の増分は、

\Delta U_i=(1+\rho)v\delta-c

となる。

したがって、早期採用が合理的となる条件は、

\boxed{(1+\rho)v\delta>c}

である。

この結果から、相対利得に対する関心が強いほど、早期採用を選択する誘因が大きくなることが分かる。

特に、

v\delta<c<(1+\rho)v\delta

が成立する場合、絶対利得のみを考慮する企業は通常採用を選択するが、相対利得を考慮する企業は早期採用を選択する。

これは、自社の採用成功だけでは早期化の費用を正当化できない企業であっても、競合企業の人材獲得を阻止することの戦略的価値を考慮すると、早期化を選択し得ることを意味する。

この構造は、オフェンシブ・リアリズムが強調する相対的権力の最大化と整合的である。

もっとも、採用早期化が絶対利得の追求だけでも生じ得ることには注意を要する。相対利得の考慮は競争を増幅する要因であって、常に競争成立の必要条件となるわけではない。

4.5 不確実性の役割

ここまでの単純なモデルでは、企業は競合企業の利得構造を知っていると仮定した。

実際の採用市場では、競合企業の採用予定人数、選考時期、採用活動の強度、内定辞退率などが不確実である。

このような状況では、企業は競合他社が先行して採用活動を行う可能性を考慮し、採用機会の喪失を回避するために早期採用を選択することが考えられる。

他方、不確実性は、将来の人材需要について判断が困難であることを意味する場合もある。その場合、企業は採用活動を遅らせる方が合理的であると判断するかもしれない。

したがって、不確実性が採用早期化に与える効果は一方向とは限らない。

先制的な採用活動が合理的になるのは、早期採用の追加費用よりも、後手に回ることによって失われる期待便益が大きい場合である。

この点において、新卒採用市場へのオフェンシブ・リアリズムの適用は、他社の意図が不確実であるという事実だけでなく、不確実性の下で先制的行動が有利になる具体的条件を明らかにする必要がある。

4.6 理論的命題

以上の分析から、次の三つの命題を導く。

命題2:採用早期化の非協調均衡

採用早期化による競争上の期待便益が追加費用を上回る場合、各企業は競合の戦略にかかわらず早期採用を選択する誘因を持ち、相互に採用活動を早期化する均衡が成立し得る。

命題3:相対利得による早期化の促進

企業が競合企業との相対的な人的資本形成能力を強く意識するほど、採用活動を早期化するために負担し得る費用の上限は上昇する。

命題4:個別合理性と集団的合理性の乖離

採用活動の先行者利益が企業間で相殺され、早期採用の費用のみが残存する場合、企業の個別合理的な意思決定は、企業集団全体の利益を低下させる均衡を生む。

5.日本の新卒採用市場における現象との照合

5.1 人材獲得競争の背景

リクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査(2027年卒)」によれば、2027年3月卒業予定者の大卒求人倍率は1.62倍であった [worksRatio2026]。

また、同研究所の「新卒採用 10年の変化と現在地」によれば、新卒採用計画数を充足できた企業の割合は、2026年卒で32.4%となっている [worksDecade2026]。

これらの調査結果は、企業が希望する人数を採用することが必ずしも容易ではない状況を示している。

ただし、大卒求人倍率は労働市場全体の求人と求職の関係を示す指標であり、特定の能力を有する学生の希少性や、企業間の相対利得への関心を直接測定するものではない。

したがって、これらの数値だけでオフェンシブ・リアリズムの妥当性が実証されたとはいえない。

5.2 採用活動の早期化と先制的行動

2025年12月26日に取りまとめられた政府の「2027年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程に関する考え方」では、現行の採用日程ルールと実際の採用活動との乖離が指摘されている [schedule2025]。

同資料で紹介された企業調査では、広報活動を2月以前に開始した企業が約6割、採用選考活動を5月以前に開始した企業が約7割、5月以前に内々定を出した企業が約6割とされている。

また、政府は、企業が早期に優秀な人材へ接触しようと競い合う状況を、早期化の背景の一つとして挙げている。

この観察結果は、本稿が提示する採用時期選択ゲームと整合的である。

ただし、採用時期の前倒しには、労働力不足、学生の就職活動の変化、インターンシップ制度、オンライン選考の普及など、多様な要因が関係し得る。

また、JILPTの堀(2024) [hori2024]は、2023年の内閣府調査を分析し、最初の内々定取得時期には早期化が認められる一方、面接のピークや本命企業からの内々定取得時期には、それほど大きな前倒しが見られないと指摘している。

したがって、早期化を市場全体で一様に進行する現象とみなすことは適切ではない。

本稿の理論が説明するのは、採用競争によって早期化が生じ得る機構であり、全ての企業が同様の行動を取るという命題ではない。

5.3 企業自身による採用日程調整への需要

採用早期化が個々の企業にとって合理的であるとしても、企業が早期化を望んでいるとは限らない。

マイナビの「2027年卒 企業新卒採用予定調査」では、採用スケジュールについて「ルールは必要」とする企業が54.8%を占め、「ルールは不要」とする企業は10.3%であった [mynavi2026]。

同調査では、採用活動の早期化が学生と企業の双方に負担をもたらしていることを理由に、共通の採用日程を求める意見も紹介されている。

この結果は、企業が採用早期化の費用を認識しながらも、個別企業としてはその競争から容易に撤退できない可能性を示唆する。

すなわち、各企業が通常採用を選択する均衡を望みながら、他社に先行されることへの懸念から早期採用を選択するという、前節のモデルと矛盾しない。

もっとも、採用日程ルールを支持することと、実際に早期採用を行うことの関係は、この調査だけでは確認できない。

その意味で、本稿のモデルと既存調査結果の関係は、因果関係の実証ではなく、理論的整合性の確認にとどまる。

5.4 インターンシップの戦略的機能

インターンシップには、学生の職業理解を促進し、企業と学生の相互評価を可能にするという機能がある。

一方、企業がインターンシップを通じて学生と早期に接触し、能力を把握し、採用候補者との関係を構築することは、競合企業に対する先行者利益をもたらし得る。

この場合、インターンシップは、教育・職業体験の機会であると同時に、採用競争における情報収集と候補者確保の手段として機能する。

ただし、インターンシップがそのような戦略的機能を持つことは、それ自体が不適切な採用活動であることを意味しない。

適切に設計されたインターンシップは、学生の適性判断を助け、企業側の情報不足を解消することによって、マッチングの効率を高め得る。

重要なのは、同一の活動が教育的価値と競争上の利益を同時に生み出し得る点である。

その結果、個々の企業が有益なインターンシップを実施することによっても、他社が同様の活動を強化する誘因が生じ、市場全体の採用活動が早期化する可能性がある。

6.考察

6.1 新卒採用競争は不可避なのか

本稿の分析では、一定の条件下において、採用活動の早期化が企業の合理的行動から導かれることを示した。

しかし、五つの前提が成立することだけで、常に激しい採用競争が不可避になるわけではない。

採用競争が強まるためには、少なくとも、企業間で求める人材が重複すること、人材獲得の競争上の重要性が高いこと、競争的採用活動の追加便益が費用を上回ることなどが必要になる。

たとえば、特定の専門能力を有する学生の供給が限られており、複数の企業が同じ学生を高く評価する場合には、採用競争が激化しやすい。

一方、企業ごとに求める能力が異なり、学生の志向も十分に分散している場合には、競争的採用活動の効果が限定される可能性がある。

したがって、本稿の結論は、採用競争が無条件に不可避であるというものではない。

より厳密には、人材の希少性、選好の重複、競合他社への戦略的関心、先制的採用の便益という条件が満たされる限り、採用競争の自発的抑制は困難であるという条件付きの不可避性である。

6.2 オフェンシブ・リアリズムと通常の市場競争理論の相違

本稿に対する重要な反論として、採用競争の大部分は通常の市場競争理論によって説明できるのではないか、という指摘が考えられる。

実際、採用早期化の均衡は、競争的な市場参加者による先行者利益の追求として定式化できる。

また、採用時期の前倒しはRoth and Xing(1994) [rothXing1994]によって既に分析されている。

したがって、採用競争の存在自体を説明するために、オフェンシブ・リアリズムが不可欠であるとはいえない。

しかし、本稿の理論的意義は、採用競争を単なる希少資源の配分問題ではなく、企業間の相対的地位をめぐる戦略的競争として理解する点にある。

一般的な採用モデルでは、企業は自社にとって望ましい人材を獲得することを目指す。

これに対し、オフェンシブ・リアリズムの視点では、企業は自社の人材獲得だけでなく、競合企業の人材獲得が将来の自社の競争地位に与える影響にも関心を持つ。

この視点は、企業が必要数の人材を確保するためだけでなく、競合企業の人的資本形成を抑制することにも戦略的価値を見いだす状況を分析する際に有用である。

もっとも、このような行動が実際にどの程度存在するかは、今後の実証研究によって確認される必要がある。

オフェンシブ・リアリズムが市場競争理論に対して追加的な説明力を持つと主張するためには、単なる人材不足では説明できない相対利得志向の影響を識別する必要がある。

6.3 国家と企業の本質的相違

国際政治体系と新卒採用市場の最大の相違の一つは、国家間の競争と企業間の競争では、競争の対象となるものの性質が異なる点である。

軍事的な勢力競争では、相手国の支配領域や軍事能力を減少させることが、自国の安全保障を改善する場合がある。

これに対し、新卒採用市場では、学生は独立した意思決定主体であり、自らの選好に基づいて就職先を選択する。

企業がある学生に早期接触したとしても、学生が他社を選好すれば、企業の採用成功確率が上昇するとは限らない。

また、企業が提示待遇を改善した場合、競合企業にも待遇改善の誘因が生じ、学生の厚生が改善する可能性がある。

したがって、採用競争は必ずしも企業間のゼロサムゲームではなく、学生を含む市場全体では正の効果を持つ場合がある。

さらに、人的資本は企業間で奪い合うだけの固定的資源ではない。教育訓練、技能形成、労働移動などによって、その量と質は変化する。

以上から、採用競争における相対利得の追求は、国際政治における権力最大化と類似した側面を持つものの、全面的に同一視することはできない。

6.4 採用ルールによる競争の制御

採用市場における非協調均衡を緩和する手段として、共通の採用日程、採用活動に関する情報公開、学生への十分な選択期間の確保などが考えられる。

これらは、企業が競合他社に先行される危険を低下させ、採用時期に関する予測可能性を向上させる可能性がある。

しかし、採用ルールが実効性を持つためには、企業がルールを尊重する誘因を持つことが必要である。

法的拘束力を持たない要請であっても、採用開始時期に関する共通の期待を形成することで、企業間の行動を一定程度調整できる可能性はある。

その一方、企業がルールから逸脱することによって大きな利益を得られる場合、形式的なルールだけでは競争を十分に抑制できないことも考えられる。

ここで注意すべきは、採用競争の抑制それ自体が政策目的ではないことである。

採用企業間での競争を過度に制限すれば、学生に提示される待遇が低下するなど、求職者の利益が損なわれる危険がある。

公正取引委員会も、人材獲得をめぐる競争と独占禁止法の関係について検討を行っている [jftc2018]。

したがって、採用市場における制度設計は、単純に企業間の競争を減少させるのではなく、学生の選択権を保護しながら、非生産的な競争費用を削減する方向で検討されるべきである。

この観点からは、Gale and Shapley(1962) [galeShapley1962]に始まる安定マッチング理論も、制度設計上の参照枠組みとなり得る。

6.5 理論から導かれる実証可能な仮説

本稿の理論的枠組みを実証研究に発展させるため、以下の仮説を提示する。

仮説1:採用競争における先行行動の伝播

同一の学生集団を募集対象とする企業間では、競合企業の採用活動が早期化するほど、自社の採用活動も早期化する傾向が強まる。

仮説2:競合企業との事業的近接性の影響

求める人材の能力が同程度である場合、同一または近接した製品市場で競争する企業間では、そうでない企業間よりも、採用活動の先行行動に対する反応が強くなる。

仮説3:人材の希少性による競争の増幅

募集対象となる学生の供給が少なく、その能力に対する企業間の評価が重複するほど、採用活動の早期化が進みやすくなる。

仮説4:採用時期の調整に対する需要

競争的な採用活動を実施している企業であっても、採用早期化に伴う費用が大きい場合には、共通の採用日程を支持する傾向が強まる。

仮説5:相対利得による追加的効果

自社の採用予定人数を確保できる見込みが同程度であっても、直接的な競合企業が有能な人材を獲得する可能性が高い場合には、採用活動を強化する傾向が強まる。

特に仮説5は、単純な採用人数の確保を目的とした絶対利得の最大化と、相対利得を考慮した採用戦略を区別する上で重要である。

これらの仮説を検証するためには、企業ごとの採用開始時期、募集対象となる人材の属性、企業間の事業的近接性、採用予定人数、採用費用、実際の採用結果などを組み合わせたパネルデータの分析が考えられる。

もっとも、競合企業が採用活動を早期化することと、自社が採用活動を早期化することの間に相関が認められたとしても、それだけで企業間の戦略的相互作用が存在することは証明されない。

企業間に共通する人材需要の変化や、制度変更などの影響を識別する必要がある。

7.研究の限界

本稿には、以下の限界が存在する。

第一に、本稿は理論的研究であり、企業が実際に相対利得をどの程度考慮して採用戦略を決定しているかについて、独自の実証データを提供していない。

第二に、企業の合理性を単純化しており、経営者、人事部門、現場部門の間で発生する情報の非対称性や、組織内部の意思決定過程を十分に扱っていない。

第三に、学生の選好や意思決定を外生的に扱っている。学生が早期採用活動にどのように反応するか、また複数内定の保持や待遇交渉が市場均衡に与える影響は、より詳細に分析する必要がある。

第四に、採用競争が企業に与える長期的な影響を検討していない。採用によって形成される人的資本が企業の将来的な競争地位にどの程度の影響を及ぼすかは、業種、職種、教育訓練、労働移動などによって異なる。

第五に、採用活動の早期化が市場全体にもたらす厚生効果を十分に分析していない。企業側に生じる費用だけでなく、学生の時間的負担、賃金、マッチングの質などを含めた総合的な評価が必要である。

第六に、オフェンシブ・リアリズムの五つの前提と新卒採用市場の特徴との対応関係は、概念的な類推に基づいている。

本稿が提示した採用時期選択ゲームは、通常の非協力ゲーム理論によっても記述可能であり、オフェンシブ・リアリズム固有の理論的帰結を直接証明するものではない。

このため、本稿はオフェンシブ・リアリズムを新卒採用市場へ直接適用した実証的証明ではなく、異なる研究領域間での理論的構造の比較と、その応用可能性の検討として位置付けられる。

8.結論

本稿は、日本の新卒採用市場における企業間競争について、オフェンシブ・リアリズムの適用可能性を検討した。

その結果、企業間の採用活動を一元的に調整する強制的権威の不在、希少人材の排他的獲得可能性、競合企業の意図に関する不確実性、企業の存続・成長志向、および組織的合理性という五つの特徴に、オフェンシブ・リアリズムの基本的前提との類似性が認められた。

また、採用時期選択ゲームの分析から、早期採用による競争上の期待便益がその費用を上回る場合、各企業が合理的に行動した結果として、相互に採用活動を早期化する非協調均衡が成立し得ることを示した。

さらに、競合企業の人的資本形成を自社にとっての戦略的不利益として考慮する場合、採用活動を早期化する誘因が強まることを示した。

この結果は、新卒採用市場における競争的行動を、個別企業の過度に攻撃的な姿勢の問題としてだけでなく、企業間の戦略的相互作用によって生じる構造的現象として理解できることを示唆する。

ただし、採用市場は学生の自由な選択を前提とする市場であり、国家間の軍事的競争とは異なる制度的・経済的特徴を持つ。

また、企業間の採用競争は賃金上昇やマッチングの改善を通じて、学生の利益に寄与する場合もある。

したがって、採用競争の不可避性は、特定の市場条件の下で成立する条件付きの結論であり、あらゆる採用競争が非効率であることを意味するものではない。

以上を踏まえ、本稿は次の結論に至る。

新卒採用市場における競争的採用活動は、企業の倫理的自制の欠如によってのみ発生するのではない。一定の競争構造の下では、個々の企業が合理的に行動すること自体が、採用競争を持続・激化させる誘因となる。

この意味で、オフェンシブ・リアリズムは、新卒採用市場における競争的行動の構造的起源を考察するための、有用な比較理論となり得る。

今後は、企業間の相対利得への関心と採用戦略の関係について実証的検討を行い、既存の市場競争理論および市場設計論に対する本枠組みの追加的な説明力を明らかにする必要がある。

参考文献

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注: 本文における「2027年卒」は原則として2027年3月卒業者を指す。一方、政府資料の「2027年度卒業」は2028年3月卒業予定者を指しており、両者は異なる。本稿の数理モデルは独自に設定した仮定に基づく理論的モデルであり、実際の企業行動についてパラメータ推定を行ったものではない。

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Sources / References

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