EXPASA Cafe 羽田の正統性に関する教義発展論的考察――サービスエリアの普遍性と交通結節点への展開可能性――
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Abstract
本稿は、NEXCO中日本の商業施設ブランド「EXPASA」が高速道路外へ展開した事例である「EXPASA Cafe 羽田」について、ジョン・ヘンリー・ニューマンの教義発展論を援用し、その概念的正統性を検討するものである。 一般にサービスエリアは高速道路に附属する休憩施設として理解される。しかし、EXPASAの公式理念は、従来の交通通過点を、それ自体が目的地となり得る商業・休憩空間へと発展させることにある。この理念を本質とするならば、高速道路への物理的所属は、EXPASAの歴史的属性であっても、その同一性を規定する不可欠の条件とは限らない。 本稿では、ニューマンが真正な教義発展と腐敗とを区別するために提示した七つの標識を、EXPASAのブランド展開に対する解釈枠組みとして適用する。分析の結果、EXPASA Cafe 羽田は、施設規模および交通手段の相違にもかかわらず、EXPASAの基本原理を保存し、空港固有の条件を同化した正統な発展と評価できることを示す。 さらに、サービスエリアの本質を交通移動に伴う滞留の価値化として再定式化し、EXPASAが鉄道駅、港湾、バスターミナルその他の交通結節点・交通通過点においても成立し得ると論じる。ただし、その概念的適合性と商標使用上の正当性、および事業としての成立可能性は区別される。
EXPASA Cafe 羽田の正統性に関する教義発展論的考察
――サービスエリアの普遍性と交通結節点への展開可能性――
The Legitimate Development of EXPASA: A Newmanian Analysis of Service Areas Beyond Expressways
要旨
本稿は、NEXCO中日本の商業施設ブランド「EXPASA」が高速道路外へ展開した事例である「EXPASA Cafe 羽田」について、ジョン・ヘンリー・ニューマンの教義発展論を援用し、その概念的正統性を検討するものである。
一般にサービスエリアは高速道路に附属する休憩施設として理解される。しかし、EXPASAの公式理念は、従来の交通通過点を、それ自体が目的地となり得る商業・休憩空間へと発展させることにある。この理念を本質とするならば、高速道路への物理的所属は、EXPASAの歴史的属性であっても、その同一性を規定する不可欠の条件とは限らない。
本稿では、ニューマンが真正な教義発展と腐敗とを区別するために提示した七つの標識を、EXPASAのブランド展開に対する解釈枠組みとして適用する。分析の結果、EXPASA Cafe 羽田は、施設規模および交通手段の相違にもかかわらず、EXPASAの基本原理を保存し、空港固有の条件を同化した正統な発展と評価できることを示す。
さらに、サービスエリアの本質を交通移動に伴う滞留の価値化として再定式化し、EXPASAが鉄道駅、港湾、バスターミナルその他の交通結節点・交通通過点においても成立し得ると論じる。ただし、その概念的適合性と商標使用上の正当性、および事業としての成立可能性は区別される。
キーワード: EXPASA、サービスエリア、教義発展論、ジョン・ヘンリー・ニューマン、交通結節点、ブランド拡張、非場所、羽田
1. はじめに
1.1 問題の所在
高速道路のサービスエリア(Service Area: SA)は、長距離自動車交通に伴う休憩、飲食、物資調達等の需要に対応する施設として発展してきた。したがって、サービスエリアという語は、通常、高速道路との空間的・制度的関係を前提に理解される。
しかし、この理解には、本質的な機能と歴史的な成立条件とを混同する危険がある。
サービスエリアが高速道路上に成立したという事実は、サービスエリアに相当する機能が高速道路以外では成立し得ないことを意味しない。
NEXCO中日本が展開する「EXPASA」は、この区別を考察するうえで格好の事例を提供する。同社はEXPASAについて、従来の移動の通過点を目的地として選ばれる施設へ進化させたブランドとして説明している[2]。
さらに、2014年3月1日には、羽田空港の国際線旅客ターミナル(現在の第3ターミナル)に「EXPASA Cafe 羽田」が開業した。NEXCO中日本は同店を、高速道路以外への初出店として発表している[3]。
ここに一つの概念的問題が生じる。
高速道路上に成立したEXPASAが、高速道路を離れたとき、なおEXPASAであり得るのか。
もし高速道路上の立地がEXPASAの不可欠な本質であるならば、羽田店はEXPASAの名を保持しながら、その本質を失った施設となる。
反対に、EXPASAの本質が交通通過点の休憩・消費・経験価値の再構成にあるならば、羽田店は単なる例外的出店ではなく、従来のEXPASAの理念を新たな交通空間において実現した形態と解釈できる。
1.2 研究目的と仮説
本稿の目的は、EXPASA Cafe 羽田の正統性を検討するとともに、EXPASA概念の交通手段からの独立可能性を明らかにすることである。
検討に際して、次の三つの立場を区別する。
- 立地本質説: EXPASAの本質は高速道路SA・PAに所属することであり、高速道路外の施設は本来のEXPASAとは異なる。
- 機能本質説: EXPASAの本質は移動途中の休憩・消費・地域交流の場を目的地化することであり、高速道路への所属は必要条件ではない。
- 無制限拡張説: EXPASAは一般的な商業施設ブランドへ変化し得るのであり、交通との関係さえ不要である。
本稿は第二の機能本質説を採用し、第一の立地本質説を退ける一方、第三の無制限拡張説も否定する。
すなわち、EXPASAの普遍性とは、あらゆる商業施設がEXPASAたり得るという無限定性ではない。それは、交通手段が変化しても保存される機能的同一性に由来する普遍性である。
2. 理論的背景
2.1 ニューマンの教義発展論
ジョン・ヘンリー・ニューマン(John Henry Newman)は、1845年に初刊された An Essay on the Development of Christian Doctrine において、キリスト教教義の歴史的変化を、初期の教義からの単純な逸脱としてではなく、当初から内在していた原理の展開として理解する枠組みを提示した[1]。
この理論の中心には、歴史的に変化した思想や制度が、なお元の思想や制度と同一であり得るかという問題がある。
ニューマンは同書第5章において、真正な発展と腐敗を区別する七つの標識を示した。
| 標識 | 原語 | 基本的意味 |
|---|---|---|
| 第一 | Preservation of Type | 型の保存 |
| 第二 | Continuity of Principles | 原理の連続 |
| 第三 | Power of Assimilation | 同化力 |
| 第四 | Logical Sequence | 論理的連続 |
| 第五 | Anticipation of Its Future | 将来の先取り |
| 第六 | Conservative Action upon Its Past | 過去に対する保存作用 |
| 第七 | Chronic Vigour | 持続的活力 |
ニューマンにとって、真正な発展とは単に従来の形式を維持することではない。むしろ、外面的形態が大きく変化した場合でも、その変化が元の思想の同一性を保持していれば、正統な発展と認められ得る。
この考え方は、歴史的な起源と現在の同一性を区別するという点で、EXPASAの高速道路外への展開を検討するうえで有用である。
ただし、ニューマンの七標識は、あらゆる対象に機械的に適用できる必要十分条件ではない。ニューマン自身も、それぞれの標識の証明力や独立性、適用可能性が異なることを認めている。
したがって、本稿は教義発展論を商業施設の正当性を自動的に決定する権威として扱うのではなく、歴史的同一性を評価するための類推的な分析枠組みとして使用する。
2.2 交通結節点における「場所」と「通過」
交通施設には二重の性格がある。
第一に、人や物を移動させる交通ネットワーク上の機能である。第二に、利用者がそこに滞在し、買い物や飲食、交流等の行為を行う場所としての機能である。
Bertolini(1999)は、鉄道駅周辺地域を交通ネットワーク上の結節点(node)であると同時に、都市活動が集積する場所(place)として捉える分析モデルを提示した[6]。
一方、Augé(1995)は、空港や高速道路等を、近代的な移動と消費のために形成された「非場所(non-place)」の典型的事例として論じている[7]。
両者の理論的関心は異なるものの、交通空間を単なる移動設備として還元しない点において、本稿の議論と接続し得る。
EXPASAの特徴は、通過点としての性格を保持したまま、そこに滞在・消費・地域との接触を生み出すことにある。
換言すれば、EXPASAは交通機能を商業機能によって置き換えるのではなく、交通のために形成された滞留機会に、独立した経験価値を付加する装置である。
2.3 ブランド拡張論との関係
商業的観点からは、EXPASA Cafe 羽田はブランド拡張の一事例とも解釈できる。
Aaker and Keller(1990)は、既存ブランドを新たな製品カテゴリーへ拡張する場合、既存製品との適合性が消費者の評価に影響することを実証的に検討した[8]。
しかし、ブランド拡張として成功することと、ブランドの基本原理に忠実であることは同一ではない。
消費者の評価が高くても、ブランドの従来の特徴をほとんど継承していない場合があり得る。反対に、理念的な連続性を保つ拡張であっても、商業的に失敗する可能性はある。
本稿が検討するのは、主として前者のブランド評価でも後者の収益性でもなく、歴史的・理念的な同一性である。
3. 研究方法と分析対象
3.1 資料と分析方法
本稿は概念分析および事例研究を方法とする。
分析資料には、NEXCO中日本によるEXPASAの公式ブランド説明、2014年の羽田店開業発表、羽田空港による店舗案内、およびニューマンの教義発展論を使用する[1][2][3][4][5]。
まず公式資料からEXPASAの基本原理を抽出する。次に、EXPASA Cafe 羽田における当該原理の保存および変容を検討する。最後に、ニューマンの七標識を用いて、その発展の正統性と限界を評価する。
なお、本稿は店舗利用者への聞き取り、経営資料の分析、現地観察による実証研究を含まない。したがって、各サービスの実際の利用実態や収益性についての判断は行わない。
3.2 EXPASAの基本原理
NEXCO中日本の説明によれば、EXPASAは人気店舗の導入、選ぶ楽しさや見る楽しさのある商業空間、快適な休憩環境、地産地消による地域交流等を追求した施設である[2]。
これらの特徴から、EXPASAの基本原理を次の三つに整理できる。
原理Ⅰ:移動に伴う滞留の価値化
移動中に必要となる休憩や待機を、単なる時間的損失ではなく、積極的な経験の機会へ転換する。
原理Ⅱ:交通と地域の媒介
交通ネットワークと接続する施設に、地域の食材、商品、文化、観光情報等を導入することにより、移動者と地域社会との接点を形成する。
原理Ⅲ:通過点の目的地化
利用者が交通上の必要性によって立ち寄るだけでなく、施設自体の魅力によって利用を選択するような場所を形成する。
以上の三原理は相互に関連するが、高速道路という特定の交通手段を論理的には要求しない。
高速道路はこれらの原理が実際に成立した最初の場である。しかし、それが唯一の実現可能な場であるとは、原理自体からは導かれない。
3.3 EXPASA Cafe 羽田の特徴
EXPASA Cafe 羽田は2014年3月1日に開業した。開業時の事業者発表では、高速道路沿線地域の食材を使用した軽食やスイーツ、ワンハンドフード、沿線地域の観光情報等を提供することが示されていた[4]。
特筆すべきは、当時の発表において、高速道路のSA・PAでは提供できないとされたアルコール飲料の提供も明記されていた点である[4]。
これはEXPASAの食品・飲料の提供という機能を維持しながら、自動車交通に固有の制約を空港の条件に応じて変更した事例である。
また、羽田空港の公式案内では、同店は第3ターミナル5階の保安検査前エリアに位置する展望カフェとして紹介され、軽食、テイクアウト、飛行機を眺める体験等が案内されている[5]。
これらの特徴は、EXPASAの基本原理を空港の利用環境に応じて再構成したものとして解釈できる。
4. ニューマンの七標識による正統性の検討
4.1 第一標識:型の保存
ニューマンにおける型の保存とは、外面的な形態の変化にもかかわらず、思想や制度を特徴づける基本的な構造が継続していることである。
EXPASAの場合、型を高速道路上の大型商業施設として定義すれば、羽田店はこれに該当しない。実際、EXPASA Cafe 羽田は単独のカフェであり、従来のEXPASAと同等の施設規模や店舗構成を備えるものではない。
しかし、施設の規模と施設の型は必ずしも一致しない。
EXPASAの型を「交通通過点に、休憩・消費・地域交流・経験価値を組み合わせること」と定義すれば、羽田店はその主要な特徴を継承している。
ここで保存されるのは個々の店舗構成ではなく、サービスの組み合わせが果たす役割である。
羽田店はEXPASAの縮小された複製ではない。EXPASAの型をカフェという業態に翻訳した形態である。
したがって、第一標識は相当程度満たされる。
4.2 第二標識:原理の連続
第二標識では、外面的な構造の類似性よりも、それを支える原理が維持されているかが重要となる。
前節で抽出した三原理に照らせば、羽田店には明確な連続性が認められる。
第一に、空港での休憩・待機という時間を飲食や眺望の経験へ転換している。
第二に、中日本地域の食材や観光情報を空港利用者へ提供するという構想を有していた。
第三に、展望デッキに隣接するカフェという形式を通じて、空港を利用する目的とは独立した訪問価値を形成し得る。
特に第二の地域媒介機能は重要である。
高速道路沿線の地域商材を空港へ持ち込むことは、高速道路と空港の間に新たな地域的接続を形成する行為である。
羽田店は単にEXPASAの名称を掲げているのではない。EXPASAが蓄積した地域的関係を、異なる交通インフラへ移転するよう設計されている。
したがって、第二標識は強く支持される。
4.3 第三標識:同化力
同化力とは、外部の環境や要素を取り込みながら、元の思想・制度の同一性を失わない能力を意味する。
EXPASA Cafe 羽田は、空港という新たな環境に対応するため、従来の高速道路型EXPASAとは異なる機能を備えている。
その典型が、航空機の眺望を施設の魅力として活用している点である。
高速道路のサービスエリアでも、景観や周辺環境を施設の価値として利用できる。しかし、羽田店は滑走路や航空機を眺めるという、航空交通に固有の経験を取り込んでいる。
また、2014年の開業時にアルコール飲料の提供を予定していたことは、自動車運転者を前提とするサービス構成から、交通手段の違いに応じたサービス構成へ変化したことを示す。
ここで重要なのは、従来の制約を保持すること自体が正統性を保障するわけではないという点である。
自動車運転を前提とした制約を、航空旅客向けのカフェにもそのまま適用することは、EXPASAの理念を保存することではなく、理念と直接関係しない歴史的条件を保存することにすぎない。
羽田店は高速道路型EXPASAの慣行をそのまま再現するのではなく、空港固有の条件を同化することによってEXPASAの原理を保持している。
この意味において、第三標識も強く支持される。
4.4 第四標識:論理的連続
第四標識が問うのは、後の形態が元の原理から理解可能な連続性をもって導かれるかということである。
NEXCO中日本はEXPASAの名称について、EXCEEDおよびEXCELSIORに由来する「EX」と、PAおよびSAを組み合わせたものと説明している。その「EX」には、従来のSA・PAの概念を超えるという意味が込められている[2]。
ただし、この説明のみから、高速道路外への進出が当初から必然的に予定されていたと結論することはできない。
SA・PAの概念を超えるとは、高速道路内における商業施設の高度化のみを意味するとも解釈できるためである。
それでも、原理ⅠからⅢに高速道路固有の要素が不可欠でないことを踏まえれば、羽田店への展開はこれらの原理と論理的に整合している。
さらに、2014年の公式発表は、高速道路外への初出店をEXPASAの展開として明示している[3]。
したがって、羽田店の成立は単に第三者が推測した理念の延長ではなく、ブランドを展開する事業者自身が実現したものである。
以上から、羽田店はEXPASAの理念から必然的に導かれる唯一の帰結ではないものの、その理念と歴史的展開に整合する正当な帰結の一つであると判断できる。
4.5 第五標識:将来の先取り
第五標識は、後に発展した形態の萌芽が、初期の理念や実践の中に認められるかを問う。
EXPASAの公式理念には、快適な休憩環境、地域交流、商業的魅力の向上といった、空港にも適用可能な特徴が含まれている。
これらは、高速道路という場所の特性のみでは説明できない。
とりわけ地域交流という原理は、高速道路利用者だけでなく、鉄道利用者、航空旅客、港湾利用者に対しても成立し得る。
ただし、初期EXPASAが実際に空港への進出を予見していたことを示す資料は、本稿で扱った範囲では確認できない。
したがって、この標識が支持するのは、後の発展を可能にする原理が当初から存在していたという弱い意味での先取りであって、具体的な羽田店の出店計画が最初から存在したという主張ではない。
なお、EXPASAの公式ロゴは羽ばたく蝶をイメージしたものである[2]。これを航空分野への進出の予兆として読むことも、象徴的解釈としては可能である。しかし、そのような解釈は本稿の証拠には含めない。
蝶が羽田へ飛ぶことは、教義発展の美しい寓意ではあっても、事業計画の存在証明ではない。
4.6 第六標識:過去に対する保存作用
第六標識では、新たな発展が、それまでに成立した教義や制度を否定・破壊するものではないことが求められる。
EXPASA Cafe 羽田は、高速道路型EXPASAの存在理由を否定していない。
むしろ、従来のEXPASAが実現していた諸機能を交通手段に依存しない形で抽出することによって、高速道路上のEXPASAの意義を再確認させる。
羽田店の成立によって、高速道路上のEXPASAが不適切な施設となるわけではない。
同様に、高速道路上にEXPASAが存在するという事実によって、羽田店の正統性が損なわれるわけでもない。
両者は、同一の理念が異なる交通環境で実現された形態として共存し得る。
この関係は、新たな教義が旧来の教義を廃棄するのではなく、旧来の教義の意義を保持しながら適用範囲を拡張するという、ニューマンの第六標識に対応する。
もっとも、これは理念上の整合性についての判断である。空港へのブランド拡張が既存店舗の商業的価値に影響を与えたかどうかは、別途実証的に検討する必要がある。
4.7 第七標識:持続的活力
第七標識は、ある理念が短期間の変化や一時的な流行として消滅するのではなく、時間を経てもその同一性を保持して展開し続けることを重視する。
EXPASA Cafe 羽田については、2014年3月の開業が確認でき、2026年10月20日の確認時点でも羽田空港の公式店舗案内に掲載されている[4][5]。
この点は、羽田店が単発の宣伝企画として提示されたにとどまらないことを示す、一定の傍証となる。
しかし、公式店舗案内に掲載されていることだけから、全期間を通じた営業の連続性、経営上の成果、他の交通結節点への再現可能性までを判断することはできない。
したがって、第七標識については限定的な支持にとどまる。
以上を総合すると、ニューマンの七標識のうち、型の保存、原理の連続、同化力、論理的連続、過去への保存作用については、羽田店の正統性を支持する相応の根拠が認められる。
将来の先取りと持続的活力については、さらに歴史資料や実証資料を要するものの、現段階で正統性を否定する積極的根拠は認められない。
ゆえに、EXPASA Cafe 羽田は、EXPASAの理念に照らして正統な発展として理解することが十分に合理的である。
5. サービスエリアの普遍性
5.1 歴史的属性と本質的属性の区別
前節の検討は、より一般的な命題を導く。
すなわち、ある施設類型が特定の交通手段に伴って成立したとしても、その交通手段への所属が当該施設類型の不可欠の本質であるとは限らない。
高速道路はサービスエリアの歴史的な発展環境である。しかし、サービスエリアが果たしてきた機能、すなわち移動者の休憩、飲食、情報取得、地域との接触等は、高速道路以外でも成立する。
ここで、サービスエリアの成立を次の三条件によって特徴づけることを提案する。
- 交通関連性: 施設が交通ネットワーク上の通過または乗換えに関係する場所と機能的に接続している。
- 滞留機能: 利用者が移動を一時的に中断し、休息や飲食、その他の生活上の需要を充足できる。
- 滞留の価値化: 当該施設が、単なる交通上の必要性を超えた、独立した利用価値を提供する。
これらの条件は、高速道路のみならず、空港、鉄道駅、港湾、バスターミナル等でも満たすことができる。
したがって、本稿の機能的定義において、サービスエリアは特定の道路構造に従属する概念ではなく、交通ネットワークに附属する滞留価値形成の施設類型として理解できる。
5.2 EXPASAの成立条件
ただし、機能的なサービスエリアと、EXPASAという特定の商業施設ブランドとは区別する必要がある。
本稿では、EXPASAとしての正統性を評価するにあたり、次の条件を考慮する。
- 交通関連性と滞留機能を備えること。
- 通過点を目的地化する機能を備えること。
- 地域との交流や交通ネットワークを介した地域的価値の提供が認められること。
- EXPASAの既存理念との連続性が保たれていること。
- 商標・ブランドの使用について、正当な権限または許諾が存在すること。
最後の条件は概念的な正統性ではなく、組織的・法的な正当性に関係する。
ある施設がEXPASAの理念に完全に適合していても、第三者が無断でEXPASAを名乗る権利が生じるわけではない。
逆に、ブランドの使用が正当に許諾されているという事実だけで、あらゆる事業上の変更が理念的に正統となるわけでもない。
したがって、EXPASAの正統性には、少なくとも概念的正統性と制度的正当性という二つの次元が存在する。
羽田店は、この双方について肯定的な根拠が認められる事例である。
5.3 高速道路要件が必要条件ではないことの論証
ここで、次の命題を検討する。
命題:高速道路上に所在することは、EXPASAの正統性の必要条件ではない。
論証:
仮に、高速道路上に所在することがEXPASAの正統性の必要条件であるとする。
その場合、高速道路外に位置するEXPASAは、いかなる事情があっても正統であり得ない。
しかし、EXPASA Cafe 羽田は高速道路外に位置しながら、事業者によってEXPASAの展開として開業され、基本理念との機能的連続性も認められる。
前節の検討により、当該施設を正統な発展として理解する合理的な根拠が存在する。
したがって、高速道路への所属を正統性の必要条件とする立場は、羽田店の実例を適切に説明できない。
ゆえに、EXPASAの正統性にとって高速道路への所属は必要条件ではない。□
この論証の重要性は、羽田店に対して一回限りの例外を認めるものではない点にある。
高速道路への所属が必要条件でないならば、その欠如だけを根拠として、他の交通結節点へのEXPASAの展開を否定することもできない。
ただし、本命題からは、あらゆる交通施設でEXPASAの事業が実際に成立することまでは導かれない。後者には、立地条件、利用者需要、経営上の採算性等について独立した検討が必要である。
6. 交通結節点および交通通過点への展開可能性
6.1 交通手段の置換可能性
高速道路、鉄道、航空、船舶は、交通手段としての技術的構造を異にする。
しかし、いずれにも移動者が一定時間立ち止まる場所が存在し、休憩、飲食、情報取得、地域との接触等の需要が発生する。
それゆえ、EXPASAの基本原理を維持しながら、提供する具体的なサービスを交通手段に応じて変更することが可能である。
例えば、鉄道駅では乗換え時間の利用や沿線地域の特産品、港湾では船舶の眺望や寄港地の食文化、バスターミナルでは待機時間中の休憩や沿線観光情報といった特徴が考えられる。
これらの施設は、高速道路型EXPASAと物理的には同一でない。しかし、同一の基本原理に基づく異なる実現形態として構成することができる。
6.2 各交通施設への適用
以下は本稿の理論から導かれる仮説的な展開例であり、実際の出店計画や事業者の意向を示すものではない。
| 施設類型 | EXPASAとしての想定形態 | 中核となる機能 |
|---|---|---|
| 主要鉄道駅 | EXPASA Station | 乗換え休憩、沿線地域の食・文化の紹介 |
| 高速バスターミナル | EXPASA Bus Terminal | 長距離移動前後の休憩、飲食、地域情報 |
| フェリーターミナル | EXPASA Port | 乗船待機、港湾景観、寄港地との交流 |
| 空港ターミナル | EXPASA Airport / Cafe | 休憩、眺望、地域商材との接触 |
| 複合交通拠点 | EXPASA Mobility Hub | 異なる交通手段間の乗換えと滞留の価値化 |
| 幹線道路上の休憩拠点 | EXPASA Roadside | 自動車移動の休憩、飲食、地域との交流 |
これらの施設は、交通通過点という共通の機能を持ちながら、それぞれ異なる地域性や利用環境を備えている。
重要なのは、全てのEXPASAを画一的な施設へと統一する必要がないことである。
むしろ、交通手段によって異なる制約や魅力を取り込みながら、共通の理念を実現することこそ、ニューマンのいう同化力の発揮として理解できる。
6.3 通過点の普遍性と交通結節点の特異性
ここで留意すべきことは、交通結節点と交通通過点が同一ではないという点である。
交通結節点は、複数の交通路線や交通手段が接続する場所である。一方、交通通過点は、必ずしも複数の路線が接続することを要しない。
高速道路上のサービスエリアは、典型的には後者に属する。他方、空港や主要鉄道駅は、前者としての性質を持ち得る。
しかし、いずれも移動の途中に休憩・待機・消費の機会が発生するという点では共通している。
したがって、EXPASAの展開を交通結節点のみに限定する合理的根拠はない。
交通結節点であることも、交通通過点であることも、それぞれEXPASAが成立し得る条件である。
そのため、EXPASAの普遍性は、交通ネットワークの特定の構造にではなく、移動の過程に生じる人間的需要に基礎づけられる。
7. 反対説の検討
7.1 高速道路起源論
第一の反論は、EXPASAがSA・PAを語源に含み、その名称やロゴも高速道路に由来している以上、高速道路への所属が本質的であるというものである。
確かに、EXPASAは高速道路に起源を持つブランドである。これを否定することはできない。
しかし、ある概念の語源と、その概念が将来にわたって適用される範囲とは必ずしも一致しない。
EXPASAが高速道路上で成立したことは、EXPASAの歴史的理解に不可欠である。しかし、それだけでは高速道路外への展開が原理的に禁止されるという結論は導かれない。
さらに、NEXCO中日本自身が羽田への出店をEXPASAの展開として説明している事実は、少なくともブランドの公式な運用において、高速道路という条件が絶対視されていないことを示している。
ただし、この結論は道路施設に関する法的・行政的な意味での「サービスエリア」を空港にまで拡張するものではない。
本稿が扱うのはEXPASAブランドの概念的同一性であり、高速道路附属施設の制度上の定義とは区別される。
7.2 規模縮小による同一性喪失論
第二の反論は、EXPASA Cafe 羽田は単独のカフェであり、従来の大型EXPASAとは施設規模が異なるため、同一の施設類型に属さないというものである。
この指摘は、施設全体としてのEXPASAと、EXPASAの名称を冠した個別店舗を区別すべきだという点で重要である。
実際、EXPASA Cafe 羽田の存在は、あらゆる小規模カフェが大型商業施設としてのEXPASAと同等の機能を提供できることを示すものではない。
しかし、施設規模の相違が直ちに理念的同一性の喪失を意味するわけでもない。
同一の基本理念が、複数店舗からなる大型施設と、単独店舗からなる小規模施設において、それぞれ異なる範囲で実現されることは可能である。
この意味で、羽田店は大型EXPASAと同一の施設形式ではなく、EXPASAの基本理念に属する派生業態として正統であり得る。
7.3 無制限拡張論に対する批判
第三に、高速道路という条件を除外するならば、EXPASAはどこにでも成立し得るのではないかという問題が生じる。
例えば、一般のオフィスビル内のカフェにも、飲食や休憩の機能は存在する。
しかし、それだけではEXPASAの基本原理を満たさない。
通常のオフィスビル内のカフェでは、利用者の移動を前提とした滞留の価値化、交通ネットワークを介した地域交流、通過点の目的地化といった要素が必ずしも存在しない。
同様に、交通施設内にあるという理由だけで、全ての小売店舗がEXPASAに適合するわけでもない。
したがって、EXPASAの普遍性は、一般的な商業施設との概念的区別を失わせるものではない。
高速道路要件を除外しても、EXPASAをEXPASAたらしめる原理は残るのである。
7.4 商業的正当性と理念的正統性
第四の反論として、商業施設の展開を宗教的な教義の発展と比較すること自体が不適切であるという批判が考えられる。
確かに、企業ブランドは教会の教義とは異なり、市場環境や経営判断によって変更され得る。また、企業自身がブランドの意味を改める権限を持つことも、宗教的教義との重要な相違である。
したがって、本稿はブランドを宗教的教義と同一視するものではない。
本稿で援用したのは、歴史的に変化する思想・制度の同一性を、単なる外形の一致によってではなく、原理の保存と発展の連続性によって評価するという方法論である。
その限りにおいて、ニューマンの理論は商業施設の発展にも適用可能な分析上の意義を持つ。
8. 考察:EXPASAの普遍性の範囲と意義
以上の分析から、EXPASA Cafe 羽田には二重の意味が認められる。
第一に、同店はEXPASAというブランドが、高速道路以外の交通空間でも実現され得ることを示す事例である。
第二に、同店の存在によって、EXPASAの本質と、その発祥の場所とを区別することが可能となる。
羽田店が存在しなければ、高速道路への所属とEXPASAの基本原理との関係は、歴史的な同時発生ゆえに識別しにくい。
しかし、羽田店はその二つを分離している。
高速道路という条件が除去されても、EXPASAの休憩・地域交流・目的地化という原理が保存されることを示しているのである。
この意味で、EXPASA Cafe 羽田はEXPASAの例外ではなく、EXPASAの本質を明らかにするための識別事例である。
もっとも、一つの事例によって証明できるのは、高速道路への所属が不可欠ではないということであり、あらゆる交通施設で同様の展開が成功するということではない。
今後は、鉄道駅、港湾、バスターミナル等において、EXPASAの基本原理をどの程度実現できるか、利用者の滞留行動、地域交流、商業的成果等の観点から比較検討する必要がある。
特に、ブランド拡張における適合性の知覚と、理念的な正統性との関係は、独立した実証研究の対象となり得る。
9. 結論
本稿は、EXPASA Cafe 羽田をニューマンの教義発展論に照らして検討し、高速道路外への展開がEXPASAの正統性を損なうものではないことを論じた。
その結果、次の三点を明らかにした。
第一に、EXPASAの基本原理は、移動に伴う滞留の価値化、交通と地域の媒介、通過点の目的地化として理解できる。
第二に、EXPASA Cafe 羽田は、施設規模および交通手段を変更しながらも、これらの基本原理を保存している。そのため、ニューマンの七標識に照らして、正統な発展と評価する合理的根拠が存在する。
第三に、EXPASAの正統性にとって、高速道路への所属は不可欠の必要条件ではない。したがって、同様の原理を実現し得る鉄道駅、空港、港湾、バスターミナルその他の交通結節点および交通通過点にも、EXPASAが成立する概念的可能性が認められる。
以上から、本稿は次の結論を導く。
EXPASAは高速道路に起源を持つが、その本質は高速道路に従属しない。EXPASA Cafe 羽田は、この普遍性を具体的に示す正統な発展形態である。
ニューマンの教義発展論が示すように、正統性とは必ずしも旧来の形式を無変更のまま保持することではない。むしろ、形式の変化を通じてなお基本原理を保存することが、真正な発展の条件となり得る。
EXPASA Cafe 羽田は、高速道路型EXPASAからの離脱ではなく、その原理の新たな交通環境への展開である。
ゆえに、EXPASAの発展を高速道路という起源の場所に永久に限定することは、必ずしも伝統の保存を意味しない。それは、伝統に内在する発展可能性を不当に制限するものともなり得る。
EXPASA Cafe 羽田は異端ではない。その成立によって、高速道路への所属とEXPASAへの所属とが必ずしも一致しないことが明らかとなったのである。
参考文献
[1] Newman, J. H. (1845/1878). An Essay on the Development of Christian Doctrine. Chapter V, “Genuine Developments Contrasted with Corruptions.” Newman Reader.
[2] 中日本高速道路株式会社.「EXPASA:進化したサービスエリア」.公式ブランド紹介.
[3] 中日本高速道路株式会社・中日本ハイウェイ・アドバンス株式会社(2014年1月21日).「NEXCO中日本の『EXPASA』が、羽田空港に進出!!」.ニュースリリース.
[4] 中日本ハイウェイ・アドバンス株式会社(2014年3月3日).「EXPASA Cafe 羽田が羽田空港国際線旅客ターミナルにオープン!」.PR TIMES掲載プレスリリース.
[5] 羽田空港旅客ターミナル.「EXPASA Cafe 羽田」.公式店舗案内.
[6] Bertolini, L. (1999). Spatial Development Patterns and Public Transport: The Application of an Analytical Model in the Netherlands. Planning Practice & Research, 14(2), 199–210. https://doi.org/10.1080/02697459915724
[7] Augé, M. (1995). Non-Places: Introduction to an Anthropology of Supermodernity. Verso.(フランス語原著1992年) 出版社資料
[8] Aaker, D. A., & Keller, K. L. (1990). Consumer Evaluations of Brand Extensions. Journal of Marketing, 54(1), 27–41. https://doi.org/10.1177/002224299005400102
ウェブ資料の確認日:2026年10月20日。開業時の発表内容と現在の店舗案内は区別して参照した。
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