mendaXiv:2026.000008

児童ポルノ法制の外延拡張と身体政治――生成AI、実在性要件、そして「おっぱい政変」

pata ID: 6263c8d5-909a-4ea0-8f07-f02a99d1a251

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  • v2 2026-10-27 14:37 UTC published current
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Abstract

本稿は、実在の法制度・研究を足場とする架空法制史として、20X0年代の生成AI普及と「青少年性表現適正化法」の成立が身体政治に与える影響を検討する。「実在性要件/写実性/規制外延」の三軸から、児童保護を目的とする規制が成人の身体表象に及ぶ過程を描き、抗議運動「おっぱい政変」、補整下着・美容医療市場、プラットフォームの選別、フェミニズム・障害者運動の再編を分析する。実在児童の保護、刑事法の明確性、身体の多様性を同時に確保するための課題を、学術的形式を用いた風刺として提示する。

児童ポルノ法制の外延拡張と身体政治

――生成AI、実在性要件、そして「おっぱい政変」


1 序論

1.1 問題の所在

 児童ポルノ法制は、自由主義的刑事法秩序における「例外状態」を恒常化させた法領域として、長らく議論の対象となってきた。すなわち、表現の自由や性的自己決定権といった近代的権利保障が、児童という特別に脆弱な主体の存在を根拠として局所的に停止されることが、制度上正当化されている領域である。1999年の児童買春・児童ポルノ禁止法(以下、児ポ法)制定以降、この例外領域は、2014年の単純所持罪創設を含む幾度かの改正を経て拡大し、その射程は単なる買春行為の規制を超え、「児童の性的な姿態を表象する記録物」の流通一般を抑圧する方向へと深化してきた。〔R01〕〔R06〕〔N01〕

 このような児童ポルノ法制の拡張は、他方で一貫して「実在する児童の保護」という名目に支えられてきた。児ポ法における「児童」概念は暦年齢上18歳未満の者を指し、「児童の姿態」とは、そのような実在児童の身体の在り方、すなわち具体的かつ現実の子どもの身体を意味すると理解されてきた。マンガ・アニメーション・ゲーム等における虚構の児童像はいわゆる「二次元表現」として児ポ法の外側に配置され、主として各都道府県の青少年保護育成条例による流通規制の対象とされることで、「実在児童の身体」と「虚構の児童イメージ」の間には一応の法的境界が維持されてきたのである。〔R01〕

 しかし20X0年代に入り、生成AI技術およびディープフェイク技術の普及は、この境界線を根底から揺るがした。第一に、実在児童の写真や動画を学習素材としつつ、その児童の顔貌や身体的特徴を高精度に反映した裸像・性交場面を生成することが容易になったことで、「実在児童の姿態」をいかに同定し保護するのか、という従来モデルの前提が技術的に侵食された。第二に、実在児童と直接の対応関係を持たない純粋生成画像であっても、「児童に見える身体」を写実的に描くことが可能となり、しかもそれが「児童ポルノ的なコンテクスト」で大量に消費される光景が現れた。〔R04〕〔R05〕

 このとき、児童ポルノ法制をめぐる議論は、「実在児童の身体を守る」という個別具体的な権利保護から、「児童らしさを帯びた身体表象一般を管理する」という広義の文化政策・道徳政策へと、静かに軸足を移し始める。20X3年に成立した青少年性表現適正化法(以下、適正化法)は、「児童に見える身体」を対象とする「準児童ポルノ」カテゴリーを導入することで、この変化を法制度のレベルに明示的に刻印した。同法は、「年齢に関する客観的資料が十分でない場合」であっても、容貌、体格、乳房の発育状況、着衣の態様等を総合考慮し、「平均的観察者から児童と認識されるおそれの高い身体的形態」を規制対象とした。〔F01〕

 この立法は、児ポ法における「実在性要件」を形式的には維持しつつ、その周囲に「見え方」に基づく広範な規制領域を重ねるものであり、児童保護、表現の自由、身体の多様性、差別禁止、そして刑事法の明確性原則のあいだに新たな緊張を生じさせた。とりわけ、適正化法における「乳房その他身体の発育状況」の明示的な参照は、「どのような乳房・どのような身体を児童的とみなし、どのような身体を成人的とみなすか」という身体規範を、国家が法文上に書き込む行為として理解することができる。この点をめぐって、フェミニズム運動、障害者運動、クィア運動、表現の自由運動などの異なるアクターが連携し、政府与党とのあいだに激しい対立が生じた現象は、メディアおよび一部の研究者によって「おっぱい政変」と呼ばれている。〔F04〕

 本稿の問題意識は、この20X0年代の法制変容を、単なる児童ポルノ規制の強化としてではなく、「実在性要件」の揺らぎと、それを補完しようとする「児童に見える身体」概念の導入を通じて、児童ポルノ法制がいかに身体政治の装置として再編成されたのか、という観点から捉え直すことにある。言い換えれば、児童ポルノ法制をめぐる争点が、「実在児童保護 vs 表現の自由」という二項対立にとどまらず、「どのような身体が政治的に正当な性対象として承認されるのか」をめぐる闘争として変質した過程を記述し分析することが、本稿の中心課題である。

1.2 先行研究と本稿の位置づけ

 児童ポルノ法制に関する国内研究は、大きく三つの系譜に分類できる。第一に、刑事法学の領域においては、児ポ法の構成要件論・保護法益論をめぐる議論が展開されてきた。ここでは、「児童の性的自己決定権」「児童の健全な成長環境」といった抽象的利益のほか、撮影行為それ自体が児童に与える身体的・心理的被害に着目する立場、さらには児童ポルノの流通が児童に対する現実の性犯罪を誘発・助長するという間接的危険性に着目する立場などが提示されてきた。また、CG児童ポルノ事件やディープフェイク児童ポルノに関する判例評釈では、「児童の姿態」の実在性要件を維持しつつ、加工・生成物との同一性をどのような基準で判断するべきかが詳細に検討されている。〔F10〕

 第二に、憲法学および表現の自由論の文脈では、児ポ法が表現内容規制として有する問題点、とくに「猥褻」概念を超えて特定の性的対象・嗜好を名指しで違法化することの危うさが指摘されてきた。二次元表現、いわゆるロリコン作品に対する規制をめぐっては、児ポ法の適用範囲を実在児童に限定すべきとする立場と、虚構表現も児童への性加害文化を支えているとして広く規制対象に含めるべきとする立場との間で、激しい論争が繰り返されている。〔R02〕

 第三に、ジェンダー研究、クィア研究、障害学、メディア研究等の領域では、ポルノグラフィ一般と児童ポルノ法制を接続しつつ、性表現をめぐる規範がどのようにジェンダー秩序や身体規範を再生産しているのかが分析されてきた。ここでは、とくに「ロリコン」表象が、単純に児童加害の予備段階とみなされるべきか、それとも近代社会における「少年少女というカテゴリー」それ自体の構築と分かちがたく結びついているか、といったより広い文化史的・身体政治的文脈のなかで議論されている。〔R07〕〔R08〕

 これらの先行研究は、20X0年代以前の児ポ法制を理解するうえで不可欠であるが、生成AI技術と「準児童ポルノ」概念を含む法制の再編という近年の動向を十分に射程に入れているとは言い難い。とくに、適正化法のように、「実在性要件」を形式的には維持しつつ、その周囲に「児童に見える身体」という新たなカテゴリーを付加する立法技術が、①保護法益構造、②刑事法の明確性原則、③身体の多様性尊重という観点からどのような再編をもたらすのかについては、分析が端緒的にとどまっている。〔F10〕

 本稿の位置づけは、こうした先行研究の蓄積を踏まえつつ、児童ポルノ法制を「実在性要件/写実性/規制外延」という三つの軸から整理しなおし、その上で生成AI・ディープフェイク技術の普及と「準児童ポルノ」概念の台頭が、この三軸にどのような歪みを生じさせたのかを、法制史・運動史・経済社会分析を横断して検討するところにある。すなわち、本稿は、(a)法文と判例の変遷を追うドグマティックな検討、(b)「AI児ポ」言説や「おっぱい政変」をめぐる言説の分析、(c)盛りパッド産業や美容医療産業の拡大といった経済的指標を手掛かりにした身体規範の変容の分析、を統合することで、20X0年代児童ポルノ法制の変容を「身体政治の再編」として描き出すことを目指す。

1.3 分析枠組みと資料

 本稿の分析枠組みは、次の三層構造を採用する。第一に、「実在性要件」「写実性」「規制外延」という三つの軸に沿って、児ポ法および適正化法の条文、関連判例の理論構成を整理する。実在性要件とは、「児童の姿態」が暦年齢上18歳未満の実在児童の身体に対応していることを要求する要件であり、写実性とは、写真・CG・生成画像など媒体を問わず、特定の実在児童の姿態をどの程度忠実に再現しているか、という観点である。規制外延とは、これらの要件が実務上どの範囲まで適用されているか、すなわち、どのような表現が実際に摘発・起訴・有罪認定されているか、あるいは自主規制の対象となっているか、を指す。

 第二に、この三軸の変容を、法制史および運動史の観点から追跡する。具体的には、1999年児ポ法制定から20X0年代に至るまでの立法過程、法制審議会答申、国会会議録、政府の白書・報告書、国内外のNGOによる政策提言、そして「AI児ポ」や「おっぱい政変」をめぐるメディア報道・SNS上の議論を対象に、内容分析およびディスコース分析を行う。これにより、児童ポルノ法制を正当化する言説の重心が、「実在児童の具体的被害」から「児童らしさを帯びた身体表象全体の管理」へとどのように移行していったのか、また、その過程でどのような反対運動や対抗的言説が形成されたのかを明らかにする。〔F02〕

 第三に、身体政治の観点から、法制変容が市場と生活世界に与えた影響を検討する。そのために、本稿は、盛りパッド・補整下着市場、美容医療産業、インフルエンサー・マーケティング産業等に関する産業統計・市場調査レポート、および関連企業・業界団体の広報資料を参照する。また、「児童に見えない身体」を演出することがプラットフォーム上のアカウント凍結回避や広告単価の維持に資するという実務的知識が、どのようにしてコンテンツ制作者・モデル・消費者の身体自己認識や行動に浸透していったのかを検討するため、当時のインタビュー調査・オンラインアンケート・エスノグラフィ的記述も補助資料として用いる。〔F05〕〔F06〕

 方法論的には、本稿は厳密な意味での因果推論を目指すものではなく、法制・言説・市場動向のあいだに観察される相関関係から、「どの価値がどのように再編・再配分されたのか」を記述的かつ構造的に描くことを優先する。その際、児童保護の必要性を否定するのではなく、むしろその名の下で行われた身体規範の構築と刑事法原則の緩和が、どのような対価を伴っていたのかを可視化することが、本稿の規範的関心である。児童ポルノ法制をめぐる議論を、「児童を守るか、表現の自由を守るか」という二者択一から解放し、「どの児童をどのような身体として想定し、その周囲のどの身体をどのように扱うか」という身体政治の問題として再構成することが、本稿の分析枠組みの最終的な狙いである。

2 児童ポルノ法制の基層構造

2.1 実在性要件の成立と定着

 日本の児童ポルノ法制は、一貫して「実在する児童の保護」を中心的な保護法益として構築されてきた。1999年に制定された児童買春・児童ポルノ禁止法は、制定当初から「児童」を18歳未満の者と定義しつつ、その規制対象となる「児童ポルノ」を、児童の性的な姿態を撮影・記録した写真、電磁的記録等に限定していた。このとき、「児童の姿態」とは、暦年齢上18歳未満の実在する児童の身体の在り方である、という理解が明示的・黙示的に共有されていた。〔R01〕

 この実在性要件は、①児童の性的自己決定権・人格権という具体的権利利益の保護、②現実の児童虐待・搾取行為との結びつき、③刑事法規の明確性の確保、という三つの観点から正当化されてきた。すなわち、児童ポルノ法制は、本来的には「特定の児童に対する身体的・精神的被害を媒介する記録物の流通」を防止するための装置であり、抽象的な「児童イメージ」や、虚構上の「未成年キャラクター」に対する欲望一般を規制することを目的とするものではないと位置づけられていたのである。〔R02〕

 もっとも、マンガ・アニメーション・ゲーム等における未成年様キャラクターの性的表現、とくにいわゆる「ロリコン作品」をめぐっては、早くからその規制の要否が社会的争点となっていた。しかし、この領域は、児ポ法ではなく青少年保護育成条例等の行政法的枠組みに委ねられることで、実在性要件を中核とする刑罰法規との間に一応の線引きが維持されてきた。その結果、「実在児童の姿態を撮影した写実的画像」と「虚構の児童像を描いた二次元表現」とは、法的扱いの上で異なるカテゴリーとして扱われることになった。〔R03〕

2.2 CG・ディープフェイク判例と「姿態」概念の変容

 もっとも、デジタル画像処理技術の発展は、「実在児童の姿態」という概念自体を揺さぶる結果をもたらした。2000年代から2010年代にかけて、実在の少女の裸の写真を素材としつつ、それを加工・合成したコンピュータグラフィックス(CG)画像が児童ポルノに該当するか否かが争われた一連の事件は、その象徴である。〔F03〕

 これらの事件において裁判所は、「児童の姿態」の実在性要件を維持しつつも、その判断基準を「通常人からみて、素材となった児童と同一人の姿態を描写したものと認識し得るか」に求める方向で理論を展開した。すなわち、①素材となった写真の被写体が実在の児童であり、②加工後の画像が顔貌・体型・ポーズ等の点で当該児童と社会通念上同一人物と認識される程度の写実性を有している場合には、当該CG画像もまた「その児童の姿態」を描写する児童ポルノに該当すると解されたのである。〔F03〕

 この射程拡張により、「写真かCGか」「生データか加工物か」という媒体の違いは、副次的なものとなった。他方で、顔のみ実在児童、身体は完全に創作された裸体、といった構成については、「性的に利用されているのは虚構の身体であり、実在児童の姿態とは言い難い」とする見解も有力であり、判例・学説はいまだ必ずしも収斂していない。ここに、後にディープフェイク技術が介入してくる余地が生まれた。すなわち、「実在の児童をモデルとした写実的な裸体表象」が、どの程度の加工・生成を経てもなお「その児童の姿態」として扱われるべきか、という問題である。〔F03〕

 ディープフェイク技術は、元画像や動画を用いつつ、ニューラルネットワークにより顔貌や身体を高精度に再構成するため、「素材と生成物の同一性」を従来のような視覚的比較だけで判断することを困難にした。これに対して一部の下級審は、「生成過程において実在児童の画像を学習素材として利用した事実」を重視するアプローチを試みたが、これは「実在性要件」を被写体レベルではなく学習データレベルに後退させることにもなり、保護法益との対応関係や証明可能性の観点から新たな問題を生じさせることとなった。〔F03〕

2.3 マンガ・アニメ規制と青少年条例の役割

 以上のように、児童ポルノ法制の中核にあるのは「実在児童の姿態」という概念であり、マンガ・アニメ・ゲーム等における虚構の児童像の扱いは、児ポ法の外部で調整されてきた。具体的には、多くの都道府県青少年保護育成条例が、いわゆる「有害図書類」として、一定の性的表現を含む二次元コンテンツを指定し、年少者への販売・閲覧を制限する仕組みを導入してきた。〔R03〕

 この枠組みは、①虚構表現に対する刑事罰の直接適用を避けつつ、②行政上の流通規制・ゾーニングを通じて「青少年にふさわしくない」とされる表現を周辺化する、という二重の性格を持っている。ここでは、未成年様キャラクターの性的表現も、「児童ポルノ」ではなく「有害図書」として扱われるため、「実在性」をめぐる児ポ法の構造とは別の基準が適用される。〔N05〕

 もっとも、条例レベルの規制は地域ごとのバラツキが大きく、またインターネット上の流通を十分にカバーし得ないという限界を抱えていた。そのため、20X0年代初頭に至るまで、「実在児童を描写した写実的画像」と「虚構の児童像を描いた二次元表現」との間の線引きは、一応の安定を見せながらも、技術変化・社会的議論・国際的な規範圧力によって継続的に揺さぶられ続けていたと言える。

3 生成AIの普及と「準児童ポルノ」概念の台頭

3.1 技術的背景:生成モデルとディープフェイク

 20X0年代における法制変容の背景には、生成AI技術、とりわけ拡散モデル系画像生成と高度な顔交換技術(ディープフェイク)の急速な普及がある。これらの技術は、大量の画像データセットを学習することで、①現実の写真と視覚的に区別し難い新規画像をゼロから生成すること、②既存画像の特定部分(顔・身体・衣服等)を高度な自然さで置換すること、を可能とした。〔R04〕〔R05〕

 この技術的特徴は、児童ポルノ法制にとって二つの方向から圧力を加えた。第一に、実在児童の写真・動画を素材として、その児童の顔貌や身体的特徴を反映した裸像・性的姿態を生成するディープフェイク児童ポルノの生成が、一般ユーザーにも容易に行えるようになったことである。これは従来の「素材写真+CG加工」と同じ構図でありながら、生成過程がブラックボックス化しているため、「どこまでが素材児童の姿態で、どこからが創作された虚構の身体か」を視覚的に判別することが困難になった。〔R05〕

 第二に、実在児童と無関係な純粋生成画像であっても、「年齢不詳だが児童に見える身体」を大量に生産・流通させることが技術的に可能となったことである。ここでは、学習データセットに含まれる多様な年齢層の画像から抽出された特徴が混交するため、生成物に映る人物が特定の実在児童と対応しているとは限らない。しかし、第三者から見れば、そこに描かれているのは「どこかにいそうな未成年の裸」であり、児童ポルノ的な文脈で消費され得る表象である。このギャップが、「実在性要件」を中核とする従来モデルの限界を露呈させることになった。〔R04〕

3.2 立法事実としての「AI児ポ」言説

 こうした技術的変化に対し、「AI児ポ」「ディープフェイク児童ポルノ」といった言葉が、メディア・NGO・国際機関の報告書において頻繁に用いられるようになった。これらの言説は、①実在児童の顔を用いた性的ディープフェイクによる人格権侵害・二次被害、②純粋生成画像が児童に対する性的嗜好の助長・正当化に寄与するのではないかという懸念、という二つの問題系をしばしば区別せずに束ねる傾向を有していた。〔F02〕

 政策文書レベルでは、国際的な子ども保護団体や一部の欧州機関が、「実在児童の有無にかかわらず、未成年に見える写実的な性的表現を広く『児童性的虐待資料』(CSAM)の範疇に含めるべきだ」とする提言を行った。これに対して日本政府は当初、「我が国の児童ポルノ法制は実在児童の保護に焦点を当てており、虚構表現については青少年条例等の枠組みに委ねる」との立場をとっていたが、国内においても「AI児ポ」が立法事実として自立した影響力を持ち始めると、この二層構造自体が再検討を迫られることとなった。〔R10〕〔N06〕

 とくに、SNS上で拡散する「AI少女ヌード」「未成年風生成画像」への批判は、「このような表現が放置されることで、現実の児童に対する性的加害の敷居が下がるのではないか」といった、因果関係の立証が困難な懸念を伴いつつ、強い感情を喚起した。この種の言説は、厳密な意味での立法事実というより、「政治的に説得力のある危機のイメージ」として機能し、法制審議会や国会審議において「準児童ポルノ」概念を導入するためのレトリック的資源となっていった。〔F02〕

3.3 国会審議に見る実在性要件をめぐる緊張

 20X3年の青少年性表現適正化法の審議過程は、「実在性要件」をめぐる緊張が、立法政治のレベルでいかに顕在化したかを示す事例である。政府原案は、児童ポルノ禁止法における実在性要件そのものには手を付けず、別法として「児童に見える身体」を規制対象とする新カテゴリーを創設するという構造を採用した。一見すると、これは実在児童保護モデルを維持しつつ、その外側にあるリスク領域を「準児童ポルノ」として包摂する妥協案のように見える。〔F01〕〔F02〕

 しかし、審議の場で野党議員や参考人からは、「実在性要件を維持したまま『児童相当身体』を別法で規制することは、実質的に実在性要件の骨抜きを意味するのではないか」という指摘が相次いだ。すなわち、刑罰法規の名宛人からすれば、児ポ法と青少年性表現適正化法の区別は形式的なものであり、「未成年に見える身体」を描いた写実的表現一般が制裁の対象となることには変わりがない。これは、表現の自由・身体の多様性・差別禁止といった価値と、児童保護の名の下でどこまで妥協しうるのか、という根源的な問いを提起するものであった。〔F02〕

 他方で、与党側および一部の保護団体は、「実在児童の有無にかかわらず、未成年様身体を性的対象とする文化そのものが、潜在的加害性を内包している」と主張し、「実在性」にこだわる従来モデルが「技術変化に対応しきれていない」と批判した。ここでは、「実在の児童の姿態を保護する」という個別具体的権利保護の論理から、「児童らしさを帯びた身体表象一般を管理する」文化政策・道徳政策の論理へのシフトが生じている。〔F02〕

 最終的に成立した法案は、児ポ法上の定義には手を付けない一方で、「児童相当身体」の定義において「乳房その他身体の発育状況」を明示的に参照することで、事実上「どのような身体が児童らしいと国家がみなすか」を法文上に刻印することとなった。このとき、「実在性要件」は形式的には維持されたものの、その周囲に「見え方」に基づく広範な規制領域が付け足されることにより、児童ポルノ法制全体の重心は、実在児童の保護から、身体の外形と性欲の向けられ方を統制する身体政治へと、静かに移動し始めていたのである。〔F01〕

4.1 法案構造:児童ポルノ法制との重層化

 青少年性表現適正化法(20X3年法律第XX号、以下「適正化法」)は、その立法技術において特徴的である。すなわち、児ポ法における「児童ポルノ」の定義や実在性要件を直接改正するのではなく、別個の法体系として「青少年性表現」を対象とする枠組みを新設しつつ、その規制対象の一部が実質的に児ポ法と重複する、という重層構造を採用した点である。〔F01〕

 政府原案は、「児童ポルノ法制はあくまで実在児童の性的搾取からの保護を目的とするものであり、虚構表現や年齢不詳の写実的表現を一括して同法の射程に含めることは、罪刑法定主義および表現の自由への過度な制約となる」と説明した。その一方で、「生成AI技術の発展に伴い、実在児童と見分けがつかない写実的表現が大量に流通している現状に鑑みれば、児ポ法の外側に『準児童ポルノ』的領域を設け、青少年保護の観点から一定の制限を課すことが必要不可欠である」として、新法制定の必要性を強調した。〔F02〕

 適正化法は、第1条において目的を「青少年の健全な育成のため、一定の性表現に対し適正な表示および提供制限等を行うこと」と規定し、第3条以下で、事業者に対する提供制限義務、プラットフォーム事業者に対する表示義務、広告における配慮義務などを定めている。一見すると、これは従来の青少年保護育成条例を国レベルに引き上げた行政法的枠組みのように見える。しかし、その中核をなす第7条〜第10条は、「児童相当身体」の性的表現について、違反した事業者・配信者に対して刑事罰を科し得る罰則規定を含んでおり、実質的には児ポ法に隣接する刑事規制領域を新たに創出するものであった。〔F01〕

 この結果、児童ポルノ法制の全体像は、①実在児童の姿態を対象とする児ポ法、②児童に見える身体の写実的表現を対象とする適正化法、③虚構・非写実的表現を主として対象とする従来の青少年保護育成条例、という三層構造を呈するに至った。他方で、一般市民やコンテンツ制作者から見れば、これら三層の境界は必ずしも明瞭ではなく、「未成年に見える身体」を描いた写実的表現一般が、実質的に刑罰・行政制裁・プラットフォーム規制の複合的な射程に置かれる結果になった。この構造的な重なりが、「おっぱい政変」と総称される一連の政治的・社会的動揺の背景をなしている。

4.2 「児童に見える身体」の定義とその曖昧性

 適正化法の概念装置のなかで、もっとも議論を呼んだのが、第2条に定義された「児童相当身体」である。同条は、「児童相当身体」とは「年齢に関する客観的資料が十分でない場合であっても、その容貌、体格、乳房その他身体の発育状況、着衣の態様等を総合考慮し、平均的観察者からおおむね児童と認識されるおそれの高い身体的形態」をいう、と規定する。この文言は、一見すると裁量の余地を抑えるための列挙規定のように見えるが、実際には「平均的観察者」「おそれの高い」といった評価概念を多用しており、極めて広汎かつ曖昧な解釈余地を残している。〔F01〕

 とくに、「乳房その他身体の発育状況」が例示として明示されたことは、「どのような乳房を児童的とみなし、どのような乳房を成人的とみなすのか」という判断を、事実上、捜査機関および裁判所の主観に委ねることを意味する。この点について、国会審議の場では、「乳房が小さい成人女性や、ホルモン治療中のトランスジェンダー当事者、成長ホルモン分泌不全等を抱える障害者などが、『児童に見える身体』として不当に危険視されるのではないか」との懸念が繰り返し表明された。また、「児童相当身体」の判断基準に制服・スクール水着等の「着衣の態様」が含まれたことも、「制服フェティシズム一般が児童ポルノ的文脈に巻き込まれるのではないか」との疑義を招いた。

 与党・政府側は、「あくまで平均的観察者からみて児童と認識されるおそれが高い場合に限られ、成人が一律に『児童相当身体』とされるものではない」と答弁したが、その具体的な運用基準は審議時点では明らかにされなかった。むしろ、警察庁が示した非公式の運用方針案には、「身長150cm前後で乳房の隆起が乏しい者」「生殖器周辺の体毛が乏しい者」といった、身体的特徴に強く依拠した例示が含まれていたと報じられている。これに対して学界からは、「身体的特徴と年齢を短絡させることは、身体差別を助長し、身体の多様性を否定することにつながる」との批判が相次いだ。〔F02〕

 にもかかわらず、最終的な法文は、若干の文言修正(「乳房その他」を「身体の発育状況」に続けて括弧書きするなど)に留まり、観察者の印象に大きく依拠する構造は維持された。この結果、「児童に見える身体」の範囲は、法技術的には限定されているように見えながら、実務運用においてはかなり恣意的な拡張が可能な柔構造として残存することとなった。この曖昧性こそが、のちに「おっぱい政変」と呼ばれる政治的動乱の火種を内包していたのである。〔F01〕

4.3 「おっぱい政変」:抗議運動と政権交代

 適正化法の成立前後には、法案に反対する運動が全国的に拡大した。初期段階では、表現の自由を掲げるクリエイター団体や出版業界団体が中心となり、「虚構表現への過剰介入」として批判を展開していたが、「児童相当身体」の定義が明らかになるにつれ、フェミニズム運動、障害者運動、LGBTQ+運動など、身体の多様性を重視する諸運動が次々に反対の声を上げた。〔F04〕

 とくに象徴的であったのは、「私の身体は証拠ではない」「乳房のサイズは年齢ではない」と記されたプラカードを掲げたデモ行進である。そこでは、貧乳・童顔・低身長の成人女性をはじめ、トランスジェンダー当事者、成長障害を持つ人々など、これまで別々の文脈で差別を経験してきた人々が、「児童に見える身体」という国家によるラベリングに対して共通の危機感を表明した。彼らにとって、適正化法は単なる表現規制ではなく、「自らの身体が、児童であるか否かを他者が勝手に判定するための指標として扱われる」ことを制度的に承認する法として映ったのである。〔F04〕

 メディアの一部は、当初こうした動きを揶揄的に報じ、「おっぱいに政治を持ち込むな」といった論調も散見されたが、次第に論調は変化していった。とくに、政府審議会の資料に「児童相当身体」の例示として掲載されていたシルエット図が、「胸囲XXcm未満」「身長150cm以下」といった具体的数値とともに流出したことは、「国家が『政治的に正しい乳房』の条件を決めている」とする批判を急速に拡散させた。この過程で、「おっぱい政変」という言葉は、当初はSNS上のおどけたハッシュタグとして登場したにもかかわらず、やがて主要新聞の社説や学術論文にも用いられる、半ば公的な歴史的呼称へと変貌していった。〔F02〕〔F04〕

 適正化法は最終的に可決・成立したものの、法案強行採決をめぐる与野党対立、および「おっぱい政変」を契機とした若年層の政治的不満の可視化は、その後の国政選挙に重大な影響を与えた。20X4年総選挙において、与党は都市部の若年有権者を中心に大きく議席を減らし、児童ポルノ法制と身体規範の問題を正面から取り上げた野党連合が政権交代を果たすことになった。もっとも、新政権もまた、児童保護と表現の自由・身体の多様性のあいだのバランスをいかに取るかという難問から逃れることはできず、「おっぱい政変」は、単なる一過性の政権交代ではなく、法制と身体政治をめぐる長期的な再編の出発点として位置づけられることとなる。〔F04〕

5.1 盛りパッド・補整下着市場の成長

 おっぱい政変後の数年間で最もわかりやすい変化の一つは、女性向け下着市場、とりわけ盛りパッドおよび補整ブラジャーの市場規模の拡大であった。20X5年版の産業統計によれば、盛りパッドを含む補整機能付きブラジャーの国内出荷額は、適正化法施行前の20X2年と比較して約1.9倍に達している。業界団体による調査報告は、この伸長の要因として、①オンライン配信者・モデル・コスプレイヤーなど、顔出しで活動するクリエイター層の間で「児童相当身体」と見なされないよう身体を演出しようとする需要が高まったこと、②一般消費者の間でも「子どもっぽく見えること」への不安が増大し、日常的な外見管理の一環として補整下着が選好されるようになったこと、を挙げている。〔F05〕

 当時の経済白書は、こうした動向を「青少年性表現適正化法の施行を契機とした新たな消費需要」として肯定的に評価した。そこでは、「盛りパッド産業はこの年を境に成長を取り戻した。大きくなったのは道行く女性の胸囲にとどまらなかった」との一文が引用され、補整下着市場の拡大が美容医療、広告業、ECプラットフォームなど関連産業に波及効果をもたらしたことが強調されている。このような言説は、一見すると景気浮揚策の成功として描かれているが、同時に、「ある種の身体的特徴が『安全な消費対象』として政策的に推奨されている」という身体政治的側面を覆い隠している。〔F05〕

 実際、同じ調査報告の脚注部分には、「貧乳・低身長・童顔の成人女性が、適正化法の対象である『児童相当身体』と誤認されることを恐れ、自発的に補整下着を選択する傾向が観察される」と記されている。ここでの「自発的」とは、形式上は市場行動として任意に選択されているという意味であり、その背後にある法的・社会的圧力を必ずしも反映していない。換言すれば、盛りパッド・補整下着の普及は、単なるファッションや自己表現の問題ではなく、「児童ではないこと」を身体的に証明しようとする防衛行動として機能している側面を有していたのである。〔F05〕

5.2 美容医療・インフルエンサー経済と「巨乳的身体」

 補整下着市場の拡大と並行して、美容医療産業、とりわけ豊胸手術および脂肪注入・ヒアルロン酸注入等の非観血的バストアップ施術の市場も顕著な成長を遂げた。美容外科学会の統計によれば、20X2年から20X6年の間に、豊胸関連施術件数は約1.5倍に増加しており、そのうち20代後半〜30代前半の都市部在住女性の比率が高いことが報告されている。インタビュー調査において、一部の施術希望者は、「子どもっぽく見られることが嫌だ」「仕事上『児童相当身体』に見えない方が安全だと感じる」といった理由を挙げており、適正化法と身体自己認識との間に一定の関連性がうかがわれる。〔F06〕

 同時期、インフルエンサー経済、とくに動画配信プラットフォームやサブスクリプション型ファンコミュニティにおいても、「巨乳的身体」が高い収益性を持つコンテンツ資源として可視化されていった。プラットフォーム側は、児童ポルノ規制および適正化法へのコンプライアンスの観点から、アルゴリズム上、未成年様身体と推定されるコンテンツの露出を抑制し、年齢確認済みの成人クリエイターによる「大人らしい身体」のコンテンツを優遇する傾向を強めた。これにより、貧乳や所謂ロリ顔より「巨乳・グラマラスな身体」を前面に打ち出すインフルエンサーが、広告単価やサブスク加入者数の点で相対的な優位を獲得しやすくなった。〔F06〕〔R09〕

 もちろん、豊胸施術や「巨乳的身体」の表象がすべて適正化法の直接的産物であるとすることはできない。ポップカルチャーにおけるボディ・イメージの変遷、グローバルなポルノ産業の影響、フィットネス文化の浸透など、複合的要因が関与している。しかし、「児童に見える身体」が法的リスクおよびプラットフォーム規制のリスクと結びつく一方で、「明確に成人的と認識される身体」が経済的リターンと紐づけられる構造が形成されたことは、20X0年代に特徴的な身体政治の一断面である。ここには、「児童保護政策」と「市場メカニズム」が、結果として「巨乳的身体」を優越的な位置に押し上げるという逆説的な連携が認められる。

5.3 「政治的に正しい乳房」をめぐる言説

 こうした法制および市場の動向は、やがて学術言説や社会運動の内部で、「政治的に正しい乳房(politically correct breasts)」という皮肉な概念を生み出すことになった。この表現は、おっぱい政変期のSNS上の揶揄的な発言から生じたものであるが、その後、ジェンダー研究や法社会学の文献においても、「国家と市場が共同で構築する『安全で望ましい乳房』の条件」を指す分析概念として用いられるようになった。〔F09〕

 「政治的に正しい乳房」とは、単に大きい乳房を意味するわけではない。それは、①児童ポルノ法制および適正化法の運用上、「児童相当身体」と誤認される可能性が低いとみなされる発育状況、②広告・プラットフォームのレギュレーションに抵触せず、「成人コンテンツ」として合法的に収益化可能な身体的特徴、③美容医療・ファッション産業によって「理想的なボディライン」として反復的に提示されるスタイル、の三つが重なった領域に位置する仮想的な身体像である。言い換えれば、それは児童ポルノ法制に触れないための「コンプライアンス仕様の乳房」であり、同時に市場において高い交換価値を持つ「商品としての乳房」でもある。

 批判的な研究者は、この概念を用いて、児童ポルノ法制がいかにして「児童を守る」だけでなく、「いかなる胸の大きさ・身長・顔つきが『子どもっぽい』とみなされ、いかなる胸や体格なら『安全な大人』とみなされるか」を規定しているのかを明らかにしようとしてきた。そこでは、たとえば「いわゆる貧乳で小柄かつ童顔の成人女性」が、「誤解を招きやすい身体」として自己監視を強いられる一方で、「十分に発達した乳房と『大人っぽい』顔立ちを備えた身体」が、合法的かつ経済的に優遇される構造が指摘されている。〔R07〕〔F09〕

 このような状況は、フェミニズム運動内部においても議論を呼んだ。一部の立場は、「児童保護の観点から、未成年様身体の性的対象化を問題視すること自体は必要であり、『政治的に正しい乳房』批判が、ロリコン文化への批判を相対化する道具として用いられるべきではない」と主張した。他方で、別の立場は、「児童保護の名の下で、特定の身体特徴を持つ成人の性的自己決定権が奪われているのであれば、その構造自体を問題化する必要がある」と応答した。両者の対立は、単純に「規制賛成/反対」という線では整理できず、「どの身体を、どの文脈で守り、どの身体に、どのような欲望を向けることを許容するのか」という、より精緻な身体政治の議論へと展開していった。〔F04〕

 総じていえば、20X0年代の児童ポルノ法制の変容は、「児童保護」と「表現の自由」をめぐる伝統的な対立を再演しただけでなく、「政治的に正しい乳房」という逆説的な概念を通じて、国家と市場が協働して性的欲望の「適正な」対象を選別する装置として機能しうることを露呈させたのである。この点こそが、本稿が「おっぱい政変」を身体政治の転換点として位置づけるゆえんである。

5.4 成人向け動画市場における影響――いわゆる「まな板ロリ顔判決」を題材に

 青少年性表現適正化法の施行と並行して、成人向け動画市場もまた、児童ポルノ法制およびその周辺判例から少なからぬ影響を受けた。その象徴的事例としてしばしば言及されるのが、通称「まな板ロリ顔判決」である。本稿では、当該判決を素材として、成人向け動画市場におけるリスク管理と身体表象の変容を検討する。〔F07〕

 いわゆるまな板ロリ顔事件は、被告人が児童ポルノ所持罪で起訴された事案において、被告人の自宅から押収された成人向け動画群が、訴追・弁護双方によって異なる意味付けを与えられたことで注目を集めたものである。検察官は、公判廷において、被告人が所持していた動画の大半が「いわゆるロリ系ジャンル」に属し、その出演女優は「乳房の発育が乏しく、小柄で幼い顔つきを有する者(いわゆる小さい胸・低身長・童顔の女優)」で占められていることを指摘し、これをもって被告人の性的嗜好が「児童に向かっている」ことの傍証とした。〔F07〕

 これに対し、弁護人は、趣味嗜好と犯罪類型との安易な直結に異議を唱えた。その弁論要旨は、「被告人の所持作品が、俗に言うロリ顔・まな板系の女優に偏っていたこと自体は争わないが、そのことのみをもって現実の児童に対する加害意図を推認するのは、性格証拠の不当な利用である」というものであった。弁護人はさらに、「成人向け動画において、実年齢が20代後半であるにもかかわらず、小学生や中学生を想起させる衣装・演出で登場する『若作りのロリ顔まな板女優』が一定の人気ジャンルとして存在している事実」を指摘し、こうした作品の視聴それ自体は、適正化法上の「児童相当身体」には触れ得ても、児ポ法上の実在児童保護の射程からは外れると論じた。〔F07〕

 第一審判決は、被告人の所持していた成人向け動画の内容を詳細に検討したうえで、出演者がいずれも年齢確認済みの成人であること、作品のパッケージやクレジットにおいて「全員成人です」と明記されていること、撮影時に学生服やランドセル等の記号的な小児演出が施されていたとしても、それ自体は児ポ法の「児童の姿態」の定義に直結しないことを理由に、「ロリ顔まな板女優に偏った所持作品」の存在をもって直ちに児童ポルノ所持の故意を推認することはできないと判示した。判決文は、この点について次のように述べている。

「被告人の所持する成人向け映像作品において、乳房の発育が乏しく、小柄で幼い顔つきを有する、いわゆる『ロリ顔まな板』と称される体型の女優が多数出演していることは認められる。しかし、右事情のみをもって、直ちに被告人が現実の児童を性的対象とする特別の意思を有していたと推認することはできない。」〔F07〕

 この一文は、速やかにネット上で拡散され、「最高裁(ないし高裁)が公式に『ロリ顔まな板』と言った/言わされた事件」として揶揄を込めて語られることになったが、内容的には、性嗜好と故意推認の距離に関する比較的まっとうな判断を示すものと評価できる。すなわち、判決は、①成人向け動画市場における「ロリ顔」「まな板」といった身体カテゴリーの存在を前提として認識しつつも、②当該カテゴリーへの嗜好をもって、直ちに児童ポルノ所持の主観的要件を基礎付けることを拒否しているのである。〔F07〕

 しかし、まな板ロリ顔判決のインパクトは、法廷の内側にとどまらなかった。成人向け動画の制作・流通に携わる業者は、当該判決を一種のコンプライアンス指針として読み替え、「どの程度まで『ロリ顔まな板』的な身体特徴や演出を前面に出せば、適正化法・児ポ法の両方に対して安全圏とみなされるか」という微妙なラインを探るようになった。業界紙のインタビューでは、あるプロデューサーが次のように述べている。〔F08〕

「正直に言えば、あの判決が出てから、『ロリ顔まな板』という言葉そのものが社内NGワードになりました。台本やパッケージでは『童顔スレンダー』『華奢ボディ』などに言い換えています。ただ、視聴者が求めているのは明らかに“そっち系”なので、現場としては『児童相当身体』ラインを踏まないギリギリのところで演出する、という感覚になっています。」〔F08〕

 この証言は、適正化法と児ポ法が単に「NGコンテンツ」を線引きしているのではなく、「グレーゾーンにいかに近づきつつも踏み越えないか」というゲームを市場参加者に強いていることを示唆している。具体的には、①女優の実年齢を明示し、「全員二十歳以上」といったテロップを作品冒頭に挿入する、②作品のジャケットや広告において、童顔・小柄であっても成人的なファッションや飲酒シーン等を強調する、③ジャンル名から「ロリ」表現を削除し、「妹系」「幼なじみ系」など別の記号で代替する、といった対応が報告されている。

 この過程で、「若年様女性」といった曖昧な用語が一時的に用いられたこともあるが、これはかえって「実年齢は若くもないのに、小学生を想起させる配役で登場するまな板女性」という具体的イメージを喚起し、批判者・擁護者双方から「かえって生々しい」と評された※。その結果、業界内外の言説は、遠回しな表現を経由することなく、最終的には「ロリ顔」「まな板」「チビ」といった俗語レベルの身体カテゴリーを前提として議論せざるを得ない地点に収束していったのである。

※この点で、「若年様女性」という行政文書語は、意味をぼかそうとして逆に邪推を誘発する、という意味で象徴的な失敗例といえる。〔F08〕

 まな板ロリ顔判決をめぐる一連の動きは、成人向け動画市場において、児童ポルノ法制がどのように読み替えられ、実務的リスク管理に取り込まれていくかを示す興味深い事例である。判決自体は、性嗜好と故意推認の距離を適切に維持しようとするものであったが、その引用され方・伝わり方は、「ロリ顔まな板」という身体カテゴリーの社会的可視性をむしろ高める効果を持ち得た。

 言い換えれば、児童ポルノ法制は、児童保護のために成人向け表現の一部に抑制をかけるだけでなく、「どのような身体が『ロリ顔まな板』として記号化されるか」「その記号がどのジャンルに押し込められ、どのジャンルから排除されるか」という市場内部の再編にも関与している。その結果、「ロリ顔まな板」であることは、一方では法的リスクとして、他方ではニッチ市場を開拓するための差別化要因として、二重の意味で資本化されることになる。このような二重性こそが、ポストおっぱい政変期の身体政治と市場の関係を理解するうえで、まな板ロリ顔判決が持つ示唆的な点である。〔R09〕〔F08〕

6.1 フェミニズム/クィア運動と反児ポ規制運動

 20世紀末〜21世紀初頭の日本において、主流派フェミニズムは、概ね児童ポルノ規制強化と親和的な立場をとってきた。性暴力被害の可視化と加害文化批判を重視する文脈において、児ポ法は「女性・子どもに対する性暴力構造」を抑止するための重要な法的ツールと位置づけられ、その拡充は歓迎されてきたのである。二次元表現規制についても、「ロリコン表象が、少女を性的対象として扱う文化を支えている」との観点から、慎重さを保ちつつも一定の規制容認論が有力であった。〔F10〕

 しかし、適正化法の審議過程において、「児童相当身体」の具体例を示す内部資料が流出し、身長や胸囲といった数値基準が提示されていたことが明らかになると、主流派フェミニズム内部でも急速な再検討が進んだ。すなわち、「児童保護」を掲げる立法が、結果としていわゆる小さい胸・小柄・童顔(俗に「貧乳・チビ・ロリ顔」と呼ばれる特徴)の成人女性を「児童と誤認されやすい危険な身体」として扱う構造を持つことが露呈したことで、「誰の身体を守り、誰の身体を代償として差し出しているのか」という問いが、フェミニズム内部に突き付けられたのである。〔F02〕〔F04〕

 この転換点において、若年フェミニストやクィア・アクティヴィストは、「実在児童の保護」と「成人当事者の身体自治」「身体の多様性尊重」を対立概念としてではなく、複数の保護対象として同時に捉える枠組みを提示した。具体的には、「実在児童に対する性的虐待・搾取を直接伴う表現・行為」に対する児ポ法による規制は維持しつつ、「児童に見える身体」を理由とした成人表現・自己表象への刑事介入には反対する、という二重基準が主張された。この枠組みは、従来の「児ポ規制=フェミニスト的」「規制反対=オタク的」という二項対立を相対化し、「反児ポ規制運動」の内部にフェミニズム/クィア運動が本格的に参加する契機となった。〔F04〕

 結果として、「おっぱい政変」期には、主流派フェミニズムの一部も、少なくとも適正化法における「児童相当身体」規定については明確な反対を表明するようになった。これは、児ポ法全般への態度転換というより、「児童保護の名の下に、成人女性の身体が二重に管理される」構造への批判として理解されるべきである。クィア運動との連携は特に、性自認・性表現・身体的特徴の多様性を前提とする視点をフェミニズム内部に持ち込む役割を果たし、「誰が『児童に見える』とラベリングされやすいのか」という問題を、異性愛中心主義と身体規範の問題として同時に捉える視座を強化した。〔F04〕

6.2 障害者運動・身体多様性運動との連携

 適正化法をめぐる議論は、障害者運動および身体多様性運動との連携をも促した。成長ホルモン分泌不全や骨系統疾患などにより身長が低い成人、ホルモンバランスの影響で二次性徴の現れ方が典型から外れる当事者、また認知特性の違いから「幼く見える振る舞い」を行うことがある当事者などは、従来から「子ども扱いされる」「大人として扱われない」という日常的な差別や排除を経験してきた。〔R08〕

 「児童相当身体」の導入は、こうした人々にとって、「自らの身体が法的にも児童として扱われる可能性がある」という新たな恐怖をもたらした。障害者運動の一部は、「身体的特徴に基づいて年齢を推定し、それを法規制の根拠とすることは、『障害のある身体』に対する構造的差別を強化する」と批判し、適正化法の廃止または抜本的見直しを求める声明を相次いで発表した。ここでは、「児童に見える身体」とされることが、性的被害からの保護ではなく、「性的主体として承認されないこと」「性的自己決定権を奪われること」と結びついているという逆説が強調された。〔F04〕

 身体多様性運動の文脈では、「小柄であることは罪ではない」「胸の大きさで年齢は決まらない」といったスローガンが掲げられ、身長・体格・乳房の形状・体毛の有無など、多様な身体特徴が年齢推定の指標として用いられることへの批判が展開された。一部のデモでは、「まな板に主権なしと言うな」「チビとロリ顔にも法益はある」といった語感のやや雑な横断幕が掲げられ、現場レベルでのレトリックの試行錯誤が見て取れた。この運動は、従来のボディポジティヴィティ運動が主に美容規範への抵抗として展開されてきたのに対し、「刑事法的・行政法的な身体規範」への抵抗という新たな軸を獲得した点に特徴がある。〔F04〕

 フェミニズム/クィア運動と障害者・身体多様性運動の連携は、「おっぱい政変」期の特徴としてしばしば指摘される。両者は必ずしも完全に同じ目標を共有していたわけではないが、「身体的特徴に基づく年齢推定を法的介入の根拠とすることへの拒否」という一点において共通の基盤を見出し、共同声明や合同デモ、シンポジウム開催などを通じて、適正化法の問題性を可視化していった。この連携は、ポストおっぱい政変期における「インターセクショナルな身体政治」の出発点として評価されている。〔F04〕〔R08〕

6.3 表現の自由運動の再編成

 表現の自由を掲げる運動は、従来、マンガ・アニメ・ゲームといったサブカルチャー領域を中心とした「オタク文化防衛」の色彩が強く、フェミニズムや障害者運動との関係はしばしば対立的であった。しかし、おっぱい政変期においては、こうした構図にも変化が生じた。〔F10〕

 第一に、適正化法が対象とする「児童相当身体」の多くが、成人当事者の自己表象や生活の場面と重なっていることが明らかになったことで、「表現の自由」は単に作品の内容に関する問題ではなく、「どのような身体で社会に現れることが許されるか」という生の条件に関わる問題として再定義された。これにより、「ホビーとしての表現の自由」を訴えてきた従来型の運動に対し、「身体の表象と実在の身体の関係」を中心に据える新たな運動潮流が生まれた。〔F04〕

 第二に、ディープフェイク技術やAI生成技術をめぐる規制議論が、ジャーナリズム、政治的言論、風刺表現などの領域とも密接に関連することが明らかになったことで、表現の自由運動は、「ロリコン文化防衛」という狭い文脈を超えて、「技術と検閲」「プラットフォーム規制と民主主義」といった広範なテーマへと議題を拡張した。この過程で、従来は距離を置いていたメディア法研究者や情報法学者との協働も進み、「児童ポルノ法制を特例扱いするのではなく、一般的な情報法制の枠組みの中で位置づけ直すべきだ」とする提案が現れた。〔R05〕〔R09〕〔F04〕

 第三に、表現の自由運動内部での自己批判も進んだ。過去には、児ポ法やロリコン表現規制への反対運動の中で、児童や若年当事者の視点が十分に取り入れられてこなかったこと、またフェミニズムや障害者運動の問題提起を単純に「検閲志向」として退けてきたことが反省され、ポストおっぱい政変期には、「実在児童の保護」「当事者のトラウマ」「表現者の自由」「身体の多様性」という複数の価値を同時に扱うための理論的枠組みが模索されるようになった。その過程で、「ロリ顔まな板ジャンルを本気で守りたいのかどうか」という、当事者側にとってもあまり直視したくない問いが繰り返し浮上したことは、ここで指摘しておいてよいだろう。〔F04〕

 このように、20X0年代の運動史を振り返ると、フェミニズム/クィア運動、障害者・身体多様性運動、表現の自由運動は、それぞれ内在する緊張や矛盾を抱えながらも、「児童ポルノ法制と身体政治」という共通の課題を通じて相互接近を遂げたことがわかる。おっぱい政変は、その過程を象徴的に凝縮した事件であり、運動間の連携と再編の一つの節目として位置づけられる。〔F04〕

7.1 実在性・明確性・身体多様性の再配分

 本稿は、20X0年代の児童ポルノ法制の変容を、「実在性」「明確性」「身体多様性」という三つの観点から検討してきた。児ポ法は当初、「実在児童の姿態」を保護対象とすることにより、実在性要件を通じて規制範囲を限定し、刑事法の明確性原則を辛うじて維持していた。しかし、CGおよびディープフェイク判例を通じて「実在児童の姿態」の概念が拡張され、さらに生成AI技術の普及によって実在性と写実性の関係が曖昧になる中で、このバランスは徐々に崩れていった。〔F03〕

 適正化法による「児童相当身体」概念の導入は、実在性要件を形式的には維持しつつ、その周囲に「児童に見える身体」を広く包摂する規制領域を付加することで、「実在性」と「明確性」のあいだの緊張を新たな形で再配分したと言える。一方では、実在の児童を特定できない純AI表現も含め、「未成年様身体」をひとまとめに管理することにより、児童保護の外延を拡大した。他方では、どの身体が「児童に見える」と評価されるかを観察者の印象に委ねることで、構成要件の明確性を犠牲にし、身体多様性への圧力を高める結果となった。要するに、誰も頼んでいないのに「ロリ顔まな板っぽさ」を測る仕事が国家と市場のあいだで発生してしまったのである。

後年の政治思想史研究は、20X0年代の日本における身体政治を、しばしば「大体巨乳主義」と総称している。ここでいう大体巨乳主義は、乳房の大きさを「大きいことはよいことだ」という価値判断と結びつけて肯定する広義の文化的風潮(以下「巨乳主義」)と異なり、「胸が大きければ成人として安全である」とする粗雑な安全基準として、児童ポルノ法制や市場の実務の中で政治的に構成されたものである。この語は、戦間期海軍戦略を指す「大艦巨砲主義」に対する半ば自嘲的なもじりとして生まれたものであり、「おおむね巨乳であれば成人として安全とみなされるが、それ以外の身体については児童視・過剰な保護・潜在的リスク視の対象となりうる」という、雑かつ強力な身体規範を指し示している。大体巨乳主義は、いわば「児童ポルノ法制を起点とするボディ・ナショナリズム」であり、そこでは胸囲と身長と顔つきが、事実上、国家的な年齢推定アルゴリズムとして機能していた。おっぱい政変は、この大体巨乳主義体制に対し、「そもそも胸のサイズで主権と法益を配分するのはどうなのか」という、遅れてきた常識的批判を突き付けた出来事として理解できる。〔F09〕

 この再配分の帰結は、単に「規制が強くなった」あるいは「表現の自由が侵害された」といった一元的な図式では捉えきれない。むしろ重要なのは、児童ポルノ法制が、児童保護と引き換えに、どのような身体を「安全な成人」とみなし、どのような身体を「誤解を招く危険な身体」とみなすかという、身体政治上の選別機能を強めていった点である。そこでは、「政治的に正しい乳房」という逆説的な概念が示すように、国家と市場が共同で、「合法的に欲望してよい身体」の条件を再定義している。やや乱暴に言えば、後年「大体巨乳主義」と総称されることになる身体イデオロギーが、副作用として立ち上がってしまったと言ってよい。〔R07〕〔R08〕

 本稿の分析は、児童ポルノ法制をめぐる規範的議論に対し、次の点を示唆する。第一に、「実在性要件」を単純に放棄し、「児童に見える身体」を幅広く刑事規制の対象とすることは、身体多様性と明確性原則の双方に対する大きなコストを伴う。第二に、実在性要件を厳格に維持しつつ、実在児童をモデルとするディープフェイクなどの新たな表現形式にどう対応するかは、技術的証明可能性の限界と向き合う必要がある困難な課題である。第三に、児童ポルノ法制を「実在児童保護 vs 表現の自由」という二項対立のみで捉えることは、身体政治の次元で生じている不均衡を不可視化する危険がある。

 したがって、ポストおっぱい政変期の法政策は、実在児童の保護を最優先しつつも、その周囲に形成される身体規範の偏りを自覚的に調整し、「実在性・明確性・身体多様性」の三者をどのような比率で配分するのかという問いを引き受ける必要がある。それは、単に児ポ法や適正化法の文言を修正する作業にとどまらず、「子ども」「大人」「身体」「欲望」といった基本概念自体の再検討を伴う、より広い文化的・政治的プロジェクトである。少なくとも、「おっぱいのサイズで法的に安全/危険が決まる社会」は、児童保護の名の下であってもあまりに雑である、という最低限の合意は共有されてよい。

7.2 ポストおっぱい政変期における課題

 最後に、ポストおっぱい政変期における課題を簡潔に示しておきたい。第一に、実在児童をモデルとするディープフェイク児童ポルノへの対処として、刑事規制のみならず、民事上の救済(削除請求、損害賠償、差止め)やプラットフォーム責任の明確化を含む多層的アプローチが求められる。実在性要件を維持しつつ、被害児童・家族の負担を軽減する仕組みを整えることが急務である。〔R05〕

 第二に、「児童相当身体」概念の見直しが必要である。仮に適正化法を維持するにしても、身体的特徴と年齢を短絡させる現在の定義は、身体差別と明確性原則の観点から再検討されるべきであり、少なくとも身体特徴の列挙を削減し、「年齢の不確実性が高い場合に限り、慎重に適用する」方向への修正が望ましい。また、行政ガイドラインや判例を通じて、「いわゆる『まな板』『チビ』『ロリ顔』であることのみをもって『児童相当身体』と評価してはならない」といった、品の良さには難があるが実務上は分かりやすい基準を積み重ねることも重要である。

 第三に、児童ポルノ法制の議論に、児童・若年当事者および身体的マイノリティ当事者の声を制度的に組み込む仕組みが求められる。おっぱい政変期の運動は、当事者の声が規制論議の周縁に追いやられてきたことへの反動としても理解できる。今後の法改正や政策立案においては、被害児童支援団体、フェミニズム/クィア団体、障害者団体、表現者団体などを含む多様なアクターの参加を保障し、「誰の身体がどのようなコストを負うのか」を透明化するプロセスが必要である。

 第四に、国際的な規範環境との関係も無視できない。CSAM規制やAI規制に関する国際的議論は、「実在性」に必ずしも重きを置かず、「未成年様身体」の広範な規制を志向する傾向を強めている。日本が独自に実在性要件と身体多様性を重視するモデルを追求するのであれば、その正当性を国際的に説明しうる理論的枠組みを構築する必要がある。他方で、国際協調を名目として安易に外在的規範を受け入れることは、おっぱい政変が可視化した国内的な身体政治の問題を再び覆い隠す危険を孕む。〔R02〕〔R10〕〔N06〕

 おっぱい政変は、20X0年代の一過性の政治イベントではなく、児童ポルノ法制と身体政治をめぐる長期的な再編の起点として記憶されることになるだろう。本稿が描いたのは、その全体像の一部にすぎない。今後の課題は、「児童を守る」とは具体的に誰のどのような身体をどのような形で守ることなのか、そのためにどの身体にどのような負担を強いてよいのか、という問いを、技術変化と国際環境の中で引き続き問い続けることである。その営み自体が、「おっぱいで正義が決まらない社会」をかろうじて目指すための、ささやかな出発点となることを期待したい。〔F04〕


注・参考文献

実在資料

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架空資料

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F03 表象司法研究室編(20X2)『合成画像と実在性――CG・学習素材・姿態同一性をめぐる判例の展開』表象司法研究叢書第3巻。

F04 身体自治運動史編纂会編(20X7)『おっぱい政変資料集――街頭、議会、身体の主権』身体自治資料叢書第1巻。

F05 身体表象経済研究所編(20X5)『身体表象経済白書20X5――補整下着市場と制度誘発需要』同研究所。第2部「国内出荷額」、第3部「消費者の外見管理」。

F06 身体表象経済研究所・身体医療市場研究班編(20X6)『美容医療と配信労働――年齢認証社会における身体投資』同研究所。

F07 表象司法研究室編(20X5)『成人映像所持と故意の認定――通称「まな板ロリ顔事件」第一審記録』表象司法研究叢書第6巻。

F08 表象流通政策研究会編(20X6)『成人映像産業の適正化対応――制作・広告・表示実務の聞き取り記録』同研究会。

F09 身体規範研究会(20X8)「政治的に正しい乳房から大体巨乳主義へ――ポスト政変期の身体統治」『身体自治研究』第4号。

F10 法と身体研究会編(20X7)『児童保護と身体自治の研究史――刑事法、表現の自由、ジェンダーの交錯』法と身体研究叢書第2巻。

補足注

N01 「例外状態」は批評的な分析概念として用いる。理論的背景についてはR06を参照。

N05 第2.3節の「刑事罰の直接適用を避けつつ」は、児童ポルノ法への直接の包摂との対比を指す。青少年条例にも違反行為への罰則がある。

N06 国際比較では、EU指令R10と米国判決R02のように制度・憲法上の枠組みが異なる。

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Sources / References

  1. R01 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
    引用 · 法令 · 実在資料 · 日本国 (1999)

    External source

  2. R02 Ashcroft v. Free Speech Coalition, 535 U.S. 234
    引用 · その他 · 実在資料 · Supreme Court of the United States (2002)

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  3. R03 東京都青少年の健全な育成に関する条例
    引用 · 法令 · 実在資料 · 東京都

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  4. R04 High-Resolution Image Synthesis with Latent Diffusion Models
    引用 · 論文 · 実在資料 · Robin Rombach; Andreas Blattmann; Dominik Lorenz; Patrick Esser; Björn Ommer (2022)

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  5. R05 Deep Fakes: A Looming Challenge for Privacy, Democracy, and National Security
    引用 · 論文 · 実在資料 · Robert Chesney; Danielle Keats Citron (2019)

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  6. R06 State of Exception
    引用 · 書籍 · 実在資料 · Giorgio Agamben; Kevin Attell (trans.)

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  7. R07 Bodies That Matter: On the Discursive Limits of “Sex”
    引用 · 書籍 · 実在資料 · Judith Butler (1993)

    External source

  8. R08 Integrating Disability, Transforming Feminist Theory
    引用 · 論文 · 実在資料 · Rosemarie Garland-Thomson (2002)

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  9. R09 Custodians of the Internet: Platforms, Content Moderation, and the Hidden Decisions That Shape Social Media
    引用 · 書籍 · 実在資料 · Tarleton Gillespie (2018)

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  10. R10 Directive 2011/93/EU on combating the sexual abuse and sexual exploitation of children and child pornography
    引用 · 法令 · 実在資料 · European Parliament and Council (2011)

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  11. F01 青少年性表現適正化法
    引用 · 法令 · 架空一次資料 · 日本国(作中設定) (20X3)
  12. F02 青少年性表現適正化法・立法資料集――提案理由、審議記録および運用方針案
    引用 · アーカイブ · 架空一次資料 · 青少年性表現制度研究会編 (20X3)
  13. F03 合成画像と実在性――CG・学習素材・姿態同一性をめぐる判例の展開
    引用 · 書籍 · 架空二次資料 · 表象司法研究室編 (20X2)
  14. F04 おっぱい政変資料集――街頭、議会、身体の主権
    引用 · アーカイブ · 架空一次資料 · 身体自治運動史編纂会編 (20X7)
  15. F05 身体表象経済白書20X5――補整下着市場と制度誘発需要
    引用 · 書籍 · 架空一次資料 · 身体表象経済研究所編 (20X5)
  16. F06 美容医療と配信労働――年齢認証社会における身体投資
    引用 · 書籍 · 架空一次資料 · 身体表象経済研究所・身体医療市場研究班編 (20X6)
  17. F07 成人映像所持と故意の認定――通称「まな板ロリ顔事件」第一審記録
    引用 · アーカイブ · 架空一次資料 · 表象司法研究室編 (20X5)
  18. F08 成人映像産業の適正化対応――制作・広告・表示実務の聞き取り記録
    引用 · アーカイブ · 架空一次資料 · 表象流通政策研究会編 (20X6)
  19. F09 政治的に正しい乳房から大体巨乳主義へ――ポスト政変期の身体統治
    引用 · 論文 · 架空二次資料 · 身体規範研究会 (20X8)
  20. F10 児童保護と身体自治の研究史――刑事法、表現の自由、ジェンダーの交錯
    引用 · 書籍 · 架空二次資料 · 法と身体研究会編 (20X7)

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