成人映像の定量的内容分析におけるイベント同一性と提示多重性のモデル化――物理イベント・撮影・映像提示・作品収録を分離する来歴認識型データスキーマの提案――
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- v1 2026-10-27 16:57 UTC published current
Abstract
成人向け映像の定量的内容分析では、作品またはシーンを分析単位とし、描写された性行為、射精、オーガズムなどの属性を符号化する手法が広く用いられている。しかし、映像上の出来事と現実の身体的イベントは、必ずしも一対一に対応しない。 同一の身体的イベントが複数カメラで撮影され、異なるアングルから繰り返し提示される場合や、既存映像が再編集され、総集編などの別作品へ再収録される場合、作品単位の単純な集計は物理イベント数と映像上の提示回数を混同する可能性がある。また、映像編集や合成技術の発展により、映像上の出来事が現実に発生したかどうかを映像のみから確定できない事例も考慮する必要がある。 本稿では、成人向け映像の統計分析に適した来歴認識型(provenance-aware)データモデルを提案する。具体的には、physical event、capture、presentation、work occurrenceを独立した概念として定義し、作品・版との対応、素材の再利用、イベント同一性についての不確実な判断を明示的に扱う。 既存の成人映像内容分析、映像イベント認識、スポーツ中継のリプレイ解析、およびW3C PROVを参照し、想定事例による概念上の検証を行う。 本稿はデータモデルの概念提案であり、実映像のアノテーション、データベース実装および性能評価は行わない。
情報学・マルチメディア情報処理・データモデリング
キーワード: Adult Video、Content Analysis、Event Identity、Provenance、Multimedia Database、Relational Schema、Event Representation
1. 序論
映像作品において、画面に提示された出来事の回数と、現実に発生した出来事の回数は必ずしも一致しない。
例えばスポーツ中継では、一度の得点場面が複数のカメラで撮影され、本放送、スローモーション、別アングルのリプレイによって繰り返し提示される。この場合、得点は現実には一度しか発生していないが、視聴者が映像上で得点場面を目撃する回数は複数になる。
同様の問題は成人向け映像にも存在する。
一度の射精イベントが複数カメラによって撮影され、同じ作品内で複数回提示される場合、映像上の射精描写を単純に数えれば、現実の射精回数とは異なる結果になる。
さらに成人向け映像には、既存シーンを再利用した総集編、再編集版、異なる媒体向けの短縮版などが存在する。同一素材が複数作品に収録されれば、作品間で重複したイベントが観測されることになる。
ここで、次の問いが生じる。
「成人向け映像には射精が何回登場するか」という質問において、何を1回と数えるべきなのか。
現実の身体的イベントを数えるのか。
画面上の提示を数えるのか。
それとも、当該描写を収録した作品数を数えるのか。
これらは異なる統計量であり、研究目的によって適切な分析単位は異なる。
にもかかわらず、作品、シーン、身体的イベント、映像提示を単一の分析単位へまとめると、集計結果の意味が不明瞭になる。
本稿の目的は、この問題を解消するため、成人映像の内容分析に適したデータスキーマを提案することである。
2. 先行研究
2.1 成人映像の内容分析
成人向け映像を対象とした定量的内容分析は、既に複数存在する。
Downingら(2014)は、男性同士の成人向け映像302本を分析し、描写された性的行動、リスク行動、映像の特徴などを符号化した。[downing2014]
Fritzら(2022)は、インターネット上の男女間の性行為を描いた映像2,562本を対象に、各種性行為、コンドーム使用、オーガズム描写などを分析している。特にオーガズムについて、身体的に明示的な描写、身体的な暗示、言語的な表現などを区別している。[fritz2022]
この区別は、身体内部で発生したとされる出来事と、それを視聴者へ伝達する表現が異なることを示唆する。
さらにPhamら(2016)は、同一男性出演者が登場する成人映像100シーンを対象として、行為時間と映像上で推定された射精量の関係を分析した。[pham2016]
同研究では映像上の編集による中断が行為時間の符号化へ影響し得ることも考慮している。
これらの研究は、成人映像を実際の定量分析対象として扱い得ることを示している。
一方、分析単位は各研究の目的に応じて作品、シーン、出演者、描写された行為などとして設定されている。
これらの設計が誤っているわけではない。しかし、同一の身体イベントが複数回映像化された場合のイベント同一性や、総集編における素材の再収録を明示的に扱うには、別のデータ構造が必要になる。
2.2 映像情報処理におけるイベントモデリング
イベントと映像表現を区別するという発想そのものは新しくない。
Hunter(2002)はMPEG-7とMPEG-21のメタデータの意味論を統合する過程で、現実に起こったイベント、撮影や編集などの制作イベント、デジタル変換や再包装のイベントを区別する、イベント認識型のメタデータモデルを提案した。[hunter2002]
またGkalelis(2014)は、映像のショットやシーンと、現実世界のイベントとを同時に記述するためのモデルを検討している。[gkalelis2014]
したがって、physical eventとmedia representationの概念分離は、既存の映像情報処理研究と整合する。
2.3 リプレイと同一イベントの対応付け
成人映像に特有と思われる問題の多くは、実際には他分野にも現れる。
Deliègeら(2021)のSoccerNet-v2は、スポーツ映像の理解において、action spotting、camera shot segmentation、replay groundingを別々の課題として設定している。[deliege2021]
特にreplay groundingは、映像内のリプレイ場面を、それが参照する試合中の元の出来事へ対応付ける課題である。
本稿におけるイベント同一性問題と構造的に近い。
2.4 来歴情報の表現
W3C PROV-Oは、データの生成や加工について、Entity、Activity、Agentなどの概念を用いて来歴を記述するための標準である。[prov2013]
映像素材が再編集され、新しい作品に組み込まれた場合には、元素材と派生物の関係を記述する必要がある。
本稿は、既存のprovenanceモデルを成人映像の内容分析へ応用することを基本方針とする。
したがって本稿の新規性は、一般的なイベントモデリングを発明することではなく、成人映像の定量的内容分析に必要な同一性、提示多重性および集計単位を、統一した概念モデルとして整理することにある。
3. 問題設定
3.1 単純な作品単位スキーマ
成人映像の内容分析用データベースを設計する際、最初に考えられる構造は次のようなものである。
| work_id | money_shot_count | creampie_count | duration |
|---|---|---|---|
| W001 | 3 | 1 | 3600 |
| W002 | 2 | 2 | 4200 |
これは作品単位の特徴量を比較するには便利である。
しかし、この表では一つの重要な情報が失われる。
カウントされている出来事が、何と何の間で同一であるか分からない。
例えばW001とW002に同一の映像素材が収録されていても、上記の表からは判定できない。
また、同じ作品内で一度の射精イベントが異なる角度から繰り返し提示された場合、money_shot_count = 3が三度の身体的イベントを意味するのか、一度のイベントを三回提示したことを意味するのかも不明となる。
3.2 三つの異なる集計問題
本稿では以下の三つの問いを区別する。
Q1. 現実に何回の身体的イベントが発生したか。
身体的イベントを単位とした計数である。
Q2. 映像上では何回提示されたか。
同一の身体的イベントが複数回提示されれば、それぞれを数える。
Q3. 何本の作品に当該描写が収録されているか。
同一素材でも異なる作品に収録されていれば、作品ごとの収録事実を数える。
Q1からQ3は同じ問いではない。
特にQ1は、映像だけから現実の身体的イベント数を確定できるとは限らないため、推定対象と観測可能なデータを明確に区別する必要がある。
3.3 時間についての問題
成人映像において「前回の射精から次の射精までの時間」を分析する場合も注意が必要である。
時間には少なくとも以下の区別がある。
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| Real time | 現実世界での経過時間 |
| Capture time | 撮影装置が記録した時間 |
| Presentation time | 完成作品の再生時間軸 |
| Diegetic time | 作品内で経過したとされる時間 |
通常、完成作品から直接取得できるのはpresentation timeである。
編集によって時間が圧縮・省略される場合、presentation timeからreal timeを復元することはできない。
また、リプレイが含まれれば、映像上のイベント順序と現実のイベント順序が一致しない場合もある。
したがって、単にintervalと記録することは避け、どの時間系に属する値であるかを明示する必要がある。
なお、reload_intervalという列名は複数回の射精イベント間隔を連想させる点で一応意味が通るものの、兵器の装填時間との混同を招くため採用しない。
4. 提案モデル
4.1 基本方針
本稿では以下の四層を基本とする。
Physical Event — Capture — Presentation — Work Occurrence
それぞれの意味は以下の通りである。
| 概念 | 定義 |
|---|---|
| Physical Event | 現実世界で発生した、または発生したと推定される身体的イベント |
| Capture | 撮影装置によって取得された映像・音声素材 |
| Presentation | 編集等を経て視聴者へ提示される映像表現 |
| Work Occurrence | 特定作品の特定版において、その表現が収録されること |
さらに、WorkとWork Editionを補助的に導入する。
ここで重要なのは、これらの関係を一対一に固定しないことである。
一つのPhysical Eventに対し、複数のCaptureが対応し得る。
一つのCaptureから複数のPresentationが派生し得る。
一つのPresentationが複数のWork Occurrenceとして収録され得る。
さらに、一つのPresentationが複数のCaptureを組み合わせて生成されることもある。
したがって、関係の一部は多対多となる。
4.2 Physical Event
Physical Eventは、現実世界における身体的出来事を表す。
射精イベントを例とする場合、同一性は同じ映像が使われているかどうかではなく、同じ身体的出来事に由来するかどうかによって決まる。
ただし、映像のみから当該イベントの存在を確定できるとは限らない。
したがって実装上は、Physical Eventを単なる確定済み事実として格納せず、次のような認識上の状態を付与する。
corroborated:独立した制作記録等により裏付けられているinferred:映像上の情報から存在が推定されるuncertain:発生の有無または同一性が不確実not_established:現実の身体的イベントとの対応が確認されていない
これらは証拠の状態であり、映像の性的表現分類とは異なる。
4.3 Capture
Captureは、物理的な撮影によって得られた素材を表す。
一度の身体イベントがカメラAとカメラBによって同時撮影された場合、Physical Eventは一つでもCaptureは二つになる。
一方、一つのCaptureが長時間の映像を含み、複数のPhysical Eventを記録する場合もある。
このためCaptureとPhysical Eventは多対多の関係を取り得る。
なお合成映像など、撮影装置による取得を伴わない映像素材については、別途Source Mediaを用意し、Captureと区別する。
4.4 Presentation
Presentationは、視聴者に提示される映像表現の単位である。
同じ身体イベントの映像が通常速度で提示され、直後に別アングルのスローモーションとして再提示された場合、二つのPresentationが存在する。
ただし、二つのアングルを同時にsplit-screenで表示する場合は、視聴者へ提示される一つの複合Presentationとして扱うことができる。
ここでいうPresentationの同一性は、編集上の表現単位に基づく。
したがって、異なる再生時点に同一の映像表現が現れる場合は、Presentationそのものを複製するのではなく、その作品内での出現をWork Occurrenceとして別に管理する。
4.5 Work Occurrence
Work Occurrenceは、あるPresentationが作品の特定の版に収録されていることを表す。
例えば、作品Aのあるシーンが総集編Bにそのまま再収録された場合、Presentationを重複生成する必要はない。
同じPresentationが、異なるWork Occurrenceによって作品AとBに対応付けられる。
一方、総集編用に再編集され、元のPresentationとは異なる表現になった場合、新しいPresentationを生成し、元Presentationとの派生関係を記録する。
5. 論理データスキーマ
提案モデルをリレーショナルデータベースとして扱う場合、次の構成を基本とする。
| テーブル | 主な属性 | 役割 |
|---|---|---|
works |
work_id, title |
作品の識別 |
work_editions |
edition_id, work_id |
作品の版の識別 |
physical_events |
event_id, evidence_status |
現実イベントの仮説・記録 |
source_media |
source_id, source_kind |
撮影素材・合成素材等 |
capture_events |
source_id, event_id |
素材と身体イベントの対応 |
presentations |
presentation_id, presentation_type |
映像上の表現単位 |
presentation_sources |
presentation_id, source_id |
表現と元素材の対応 |
work_occurrences |
occurrence_id, edition_id, presentation_id |
作品内への収録 |
event_identity_claims |
event_a, event_b, relation, confidence |
イベント同一性に関する判断 |
この設計では、作品とイベントが直接対応するわけではない。
両者はPresentation、Source Media、Work Occurrenceなどを介して関係づけられる。
5.1 イベント属性と提示属性の分離
重要なのは、どの属性をどの概念に所属させるかである。
例えば、カメラアングルやスローモーションの有無はPresentation側の属性であり、身体的イベント自体の属性ではない。
同様に、修正強度も映像表現またはその版に属する。
仮に同一のPhysical Eventについて、異なる修正方式の作品版が存在する場合、修正強度をPhysical Event側へ保持してはならない。
一方、イベント間の実時間間隔を研究する場合、それは映像のPresentation timeではなくPhysical Event間の時間関係である。ただし、実時間を観測できなかった場合には不明として扱う。
このように属性の所属先を明確化することで、意味的に異なる変数の混合を防止する。
5.2 イベント同一性の判断
同じ身体イベントが別の映像に登場しているかどうかは、常に明白とは限らない。
別アングルの素材であっても撮影時刻が記録されていなければ、同一イベントであることを確定できない可能性がある。
そこで本稿では、同一性判断そのものをデータとして保持する。
例えば、二つのPhysical Event候補に対して、次の関係を設定する。
same:同一と判断different:異なると判断possibly_same:同一である可能性undetermined:判定不能
判定根拠や確信度も記録できる構造とする。
ここで注意すべきは、同一性判定の確信度は身体イベントそのものの客観的属性ではなく、アノテータまたは判定手続による主張の属性であるという点である。
また、確信度を閾値で二値化した結果が必ずしも推移律を満たすとは限らない。したがって、単純な類似度だけでイベント候補を自動統合すべきではない。
5.3 Depicted Eventの補助概念
さらに、映像上で描かれている出来事と、現実に発生した身体的出来事を区別するため、必要に応じてDepicted Eventを導入する。
例えば、一つの作中イベントを表現するために複数回の実撮影を行い、それらを編集で接続した場合、作中イベントは一つでもPhysical Eventは複数となり得る。
反対に、映像合成などによって作中イベントが表現された場合、対応するPhysical Eventが存在しない可能性もある。
したがって、
Depicted Event ≠ Physical Event
である。
成人映像の内容分析においては、この区別は特に重要である。
6. 想定事例による概念的検証
本節では提案モデルの表現可能性を確認するため、架空の事例を用いて検討する。
以下は論理的な例示であり、実作品から得られた観測結果ではない。
6.1 事例A:マルチアングルとリプレイ
ある身体的イベントE001が、カメラAとカメラBによって同時撮影されたとする。
作品W001では、カメラA由来の表現P001が通常再生され、その後カメラB由来の表現P002がリプレイとして提示される。
このとき、
| 集計対象 | 件数 |
|---|---|
| Physical Event | 1 |
| Capture | 2 |
| Presentation | 2 |
| Work Occurrence | 2 |
| 作品 | 1 |
となる。
ここで作品内の射精描写を二つ数えることと、現実に二度射精したと判定することは明確に異なる。
提案スキーマはこの区別を保持できる。
6.2 事例B:総集編への再収録
事例AのP001が、そのまま総集編W002へ再収録されたとする。
この場合、新しい身体イベントも新しい撮影も発生していない。
映像の編集上の単位も変わらないものとすれば、増えるのはWork Occurrenceだけである。
| 集計対象 | 事例A | 総集編追加後 |
|---|---|---|
| Physical Event | 1 | 1 |
| Capture | 2 | 2 |
| Presentation | 2 | 2 |
| Work Occurrence | 2 | 3 |
| 作品 | 1 | 2 |
単純な作品単位集計で当該シーンを数えれば、異なる二作品に射精描写が存在するという結果になる。
これは作品における描写の普及度を調べるなら正しい。
しかし身体イベント数として集計すれば重複計数となる。
この例は、単一の「正しい件数」が存在するのではなく、研究が推定したい量(estimand)によって計数単位が変わることを示す。
6.3 事例C:再編集
総集編W002では、元の映像P001の一部が省略され、別の素材と接続されたとする。
この場合、元のPresentationと再編集後のPresentationは区別する。
ただし、新しいPresentationは元の素材またはPresentationに由来することを記録する。
これによって同一素材の再利用と、新しい表現の生成とを同時に扱う。
6.4 事例D:split-screen
同じイベントが複数カメラで撮影され、二つの映像が同時に画面へ提示される場合を考える。
このとき、カメラ映像は二つ存在しても、同時提示された編集単位は一つと数えることができる。
したがって、
- Physical Event:1
- Capture:2
- Presentation:1
- Presentation内のView:2
となる。
これは、撮影視点の数と視聴者への提示回数が一致しないことを示す。
6.5 事例E:真正性が不確実な映像
ある映像では射精イベントが描かれているが、その描写が実際の身体的イベントに由来するかどうかは確認できないものとする。
この場合、Presentationは記録できる。
Depicted Eventも記録できる。
しかしPhysical Eventについては、その存在を断定してはならない。
したがって、イベントの存在についての仮説または未確認状態を保持し、確定的な身体イベント数の集計からは区別する。
この処理により、映像上の描写を現実の出来事と無条件に同一視する問題を避けられる。
7. 考察
7.1 重複計数は常に誤りなのか
本稿で扱った重複計数は、必ずしも誤ったデータ処理を意味しない。
例えば「市場に流通する成人映像作品の何割に射精描写が含まれるか」という問いでは、同一素材が異なる作品へ再収録されていても、それぞれの作品を独立して数えることは合理的である。
一方、「調査した作品群の元となった身体的イベントはいくつ存在するか」という問いでは、再収録分を重複して数えるべきではない。
両者は集計目的が異なる。
すなわち問題は重複計数そのものではなく、異なる推定対象を一つの計数方法で扱ってしまうことにある。
提案モデルは、分析目的に応じた集計単位の選択を可能にする。
7.2 撮影と提示は別の工程である
本稿ではCaptureとPresentationを区別した。
この区別は、映像制作というシステムを理解するうえでも意味を持つ。
撮影とは素材を取得する工程である。
編集とは、それらの素材から視聴者へ提示する表現を構成する工程である。
同じCaptureから異なるPresentationを生成できる以上、映像の内容分析においては素材の属性と編集された表現の属性を混同するべきではない。
例えば同じ素材が、通常速度、スローモーション、短縮版などとして提示される場合、身体的イベントそのものは同じであっても、映像上の強調度や可観測性は異なり得る。
つまり成人映像の内容分析には、何が起きたかだけでなく、何がどのように提示されたかを表現する能力が必要となる。
7.3 成人映像における来歴情報の意義
来歴情報の記録は、総集編などの素材再利用を分析するうえで有効である。
ただし、provenanceには二種類の問題がある。
第一に、ある映像がどの素材から派生したかというメディア上の来歴である。
第二に、その元素材が実際の身体的イベントを記録しているかという事象の真正性である。
前者が明らかになっても、後者が自動的に保証されるわけではない。
例えば、元の素材そのものが合成映像だった場合、再編集された作品の来歴を完全に追跡できたとしても、描写された身体イベントが現実に発生したとは限らない。
したがって本稿では、メディア来歴と物理イベントの存在についての認識状態を区別する。
この分離は、映像生成技術の発展に伴ってさらに重要になる可能性がある。
7.4 他分野への一般化
提案モデルの基本構造は、成人映像に固有ではない。
例えばスポーツ中継では、一度の得点場面が複数のカメラから撮影され、リプレイやハイライト番組で再利用される。
ライブ映像では、同一の演奏が複数カメラにより撮影され、異なる編集版として発売される。
軍事・監視映像でも、同一の物理イベントが複数センサーで観測され、報告用に異なる映像へ編集される場合がある。
これらはすべて、
Physical Event → Capture → Presentation → Work Occurrence
という概念分離によって記述できる。
ただし、一般的なイベント表現モデルは既存研究に存在するため、本稿がこの構造そのものについて新規性を主張するものではない。
成人映像という具体的な分析領域において、何を数えるべきかという問題を明示的に整理することが、本稿の貢献である。
7.5 用語上の問題
本研究を軍事映像解析へ応用する場合、用語上の注意が必要になる。
成人映像、映像制作、軍事分野では、shot、release、load、target、captureなどが異なる意味を持ち得る。
例えばshotは映像の撮影単位とも射撃とも解釈できる。
同様に、targetは分析対象、軍事的な攻撃目標、映像上に描写された身体部位などを意味し得る。
したがって本稿では、対象分野に依存しない概念を優先し、physical_event、presentation、work_occurrenceなどの識別子を使用する。
なお、乱択的なイベント同一性推定を導入する場合、seedは乱数初期値を意味することを明示する必要がある。
本稿においてseedの他の意味については論じない。
8. 限界
本稿には以下の限界がある。
第一に、提案スキーマを実装していない。
したがって、データベースの検索性能、格納効率、インデックス設計、集計処理の実行時間などについては評価していない。
第二に、実際の成人映像作品に対するアノテーションを行っていない。
そのため、マルチアングル、リプレイ、総集編、再編集といった問題がどの程度の頻度で発生するかは明らかではない。
第三に、イベント同一性を判定するアルゴリズムを提案していない。
本稿は同一性判断を表現するデータ構造を提案するものであり、映像認識による自動判定の性能については扱わない。
第四に、成人映像のジャンルによる差異を検討していない。
男性向け、女性向け、同性間の性行為を扱う作品などでは、映像上のクライマックス表現および分析すべきイベントの種類が異なる可能性がある。
したがって本稿の射精イベント中心の例示を、成人映像全体の普遍的なイベント構造とみなすべきではない。
第五に、データの収集と共有に関する倫理的・法的問題を扱っていない。
実際に研究を実施する場合には、著作権、出演者のプライバシー、同意、映像資料の適切な保管などを検討する必要がある。研究成果の公開についても、原映像の配布ではなくメタデータや合成テストデータを中心とすることが考えられる。
最後に、本稿の提案は既存の汎用イベントモデルを領域特化するものであり、既存モデルとの形式的な比較や表現能力の優越性については検証していない。
これらは今後の研究課題である。
9. 結論
本稿では、成人向け映像の定量的内容分析におけるイベント同一性および提示多重性の問題を整理し、Physical Event、Capture、Presentation、Work Occurrenceを分離した来歴認識型データモデルを提案した。
同一の身体的イベントが複数カメラで撮影され、リプレイによって繰り返し提示され、総集編などに再収録される場合、作品・シーン単位の単純な集計では、身体イベント数、提示回数、作品への収録回数を区別できない。
提案モデルは、これらを独立した概念として表現し、異なる集計目的に対応できる構造を持つ。
また、映像から身体的イベントの存在や同一性が確定できない場合を考慮し、映像上の描写と現実世界の事象を区別する必要性を示した。
本稿の概念的貢献は、成人向け映像における定量的内容分析を、単なる作品属性の符号化から、イベント同一性とメディア来歴を考慮した統計情報処理へ拡張するための設計原則を提示したことである。
なお、本研究で扱った問題の多くは、スポーツ中継などの非性的映像を対象としても検討可能である。
しかし、成人映像においても同じ問題が成立する以上、その対象をあらかじめ除外する理論的理由はない。
本稿は、成人映像研究を通じて、一般的な映像イベントモデリングの問題を再検討したものである。
研究対象が射精であることは、データモデリング上の問題を消滅させない。
参考文献
[downing2014] Downing, M. J., Jr., Schrimshaw, E. W., Antebi, N., & Siegel, K. (2014). “Sexually Explicit Media on the Internet: A Content Analysis of Sexual Behaviors, Risk, and Media Characteristics in Gay Male Adult Videos.” Archives of Sexual Behavior, 43, 811–821.
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[fritz2022] Fritz, N., Malic, V., Fu, T., Paul, B., Zhou, Y., Dodge, B., Fortenberry, J. D., & Herbenick, D. (2022). “Porn Sex versus Real Sex: Sexual Behaviors Reported by a U.S. Probability Survey Compared to Depictions of Sex in Mainstream Internet-Based Male–Female Pornography.” Archives of Sexual Behavior, 51, 1187–1200.
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[pham2016] Pham, M. N., et al. (2016). “Duration of Cunnilingus Predicts Estimated Ejaculate Volume in Humans: A Content Analysis of Pornography.” Evolutionary Psychological Science, 2, 220–227.
DOI: 10.1007/s40806-016-0057-5
【著者公開版】 https://www.researchgate.net/publication/301851868_Duration_of_Cunnilingus_Predicts_Estimated_Ejaculate_Volume_in_Humans_a_Content_Analysis_of_Pornography
[hunter2002] Hunter, J. (2002). “Reconciling MPEG-7 and MPEG-21 Semantics through a Common Event-Aware Metadata Model.”
【OA・プレプリント】 https://arxiv.org/abs/cs/0210021
[gkalelis2014] Gkalelis, N. (2014). Event Modelling and Recognition in Video. Doctoral thesis, Imperial College London.
【OA】 https://doi.org/10.25560/23932
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【OA】 https://arxiv.org/abs/2011.13367
[prov2013] W3C Provenance Working Group. (2013). PROV-O: The PROV Ontology. W3C Recommendation, 30 April 2013.
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[tzelepis2016] Tzelepis, C., Ma, Z., Mezaris, V., Ionescu, B., Kompatsiaris, I., Boato, G., Sebe, N., & Yan, S. (2016). “Event-Based Media Processing and Analysis: A Survey of the Literature.” Image and Vision Computing, 53, 3–19.
DOI: 10.1016/j.imavis.2016.05.005
【著者公開版】 https://openaccess.city.ac.uk/id/eprint/32216/
研究上の位置づけ
本稿は概念モデルの提案であり、実験データに基づく有効性検証を行っていない。提案した関係構造の実装可能性、実際の分析における有用性、および既存のイベントモデルに対する優位性は未検証である。
また、Physical Eventの同一性や実在性について、本稿は映像から確定可能であることを前提としていない。
本稿の主張は、異なる存在論的階層を混同した集計が生じ得ること、およびそれらを区別するためのデータモデルが定義可能であることに限定される。
論証単位
paper version内の主張、根拠、ワラント、前提などを登録した対象です。正しさや公式解釈を示すものではありません。
Sources / References
-
gkalelis2014 Event Modelling and Recognition in Video
-
prov2013 PROV-O: The PROV Ontology
Meviews
論証手筋の処理記録
認容・棄却・改版解決は著者による応答および処理状態です。主張の真偽、反論の妥当性、討論の勝敗を示すものではありません。
論証上の手筋が指定されたMeviewはまだありません。
Meview処理台帳
Timeline
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